Nicotto Town


藍姫の本棚♪


退魔除霊師 ~ハナ~ (6)

「縁起でもない……」

「嘘じゃないぞ。ほら、見てみろ。大漁だろう?」

クーラーボックスの中では、無数の魚が緩慢な動きで泳いで
いる。見た事のある物から、ない物まで。

何、これ。この有り得ない状況。
俺は、幻でも見てるのか?

すっかり上機嫌の春彦は、俺の引きつった顔を気にするでも
なく「お隣さんにお裾分けしてくる」と、出て行こうとした。

「ちょっと待った! この時間に、そんな酷い格好で行く気か
 よ! 通報され……じゃあなくて!」

春彦のペースに惑わされて、すっかり忘れる所だった。
さっきの瑞希からの電話は、どう考えても只事ではない。

「夏香! 夏香は?!」

「ナツなら、神社に……」

「あいつ、休みを取ってるみたいなんだ」

「……は?」

寝癖なのか、帽子の被り癖なのか、鳥の巣のような頭を掻き
ながら、春彦が鈍い反応を見せる。

この分だと、春彦も知らないのだろう。
全く肝心な時に使えない兄貴だ。

「さっき、瑞希ちゃんから電話があって、夏香から連絡はない
 かって」

「ナツなら携帯、持ってるだろう」

「不携帯電話の兄貴と違ってね。でも、出ないらしい」

俺の真剣さが やっと伝わったのか、寝ぼけ眼の春彦が真顔
になる。

普段が とぼけた三枚目なだけに、真面目な春彦は頼りにな
る感じがするのだから不思議だ。

春彦は、壁に掛かった日めくりカレンダーに目を向けて、微
かに眉間に皺を寄せた。

「お前、店番、サボってたな?」

「えっ、もしかして、俺が居ない間に、店に電話した?」

「海の上から不携帯電話で、か? カレンダー。出かけた日
 のままだぞ」

「わっ、ヤベッ」

春彦が「ちょっと晩飯 釣ってくる」と出かけたのは、八重が妖
かしに襲われた日の朝だ。

その夜、月子から連絡を受けた俺は、動揺して何も手に付か
ず……。

この店の暦の上での時は、まだ止まったままだったようだ。

「あ~、これは説明するとぉですねぇ。長くなるって言うかぁ~、
 何と言うかぁ~」

「何があった」

何から話そうか全く整理できていない俺に、春彦は一言、そ
う言った。

趣味の事になると饒舌だが、普段の春彦は多くは語らない。

ただ いつだって、優しく落ち着いた声で短く尋ねるだけなの
だ。そして、泣いている子供が落ち着くまで、ハグして背中を
さすっている母親みたいに根気強く、俺が答えるのを じっと
待っていてくれる。

昔から、俺は、どちらかと言うと落ち着きがなく、とっ散らかっ
た場所を右往左往するだけなのだが……。

この時も、俺の頭の中でオタオタ走り回っていた心が、ストン
と腹の辺りに落ちてきた。

春彦には何の力もないけど、こんな時は思い知らされる。
春彦は、やはり、兄貴で家長で,、未だに保護者なんだって。

俺が大学三年生の時に父が亡くなり、それ以来、この店を継
いで、俺達 弟妹を支えてきたのは春彦だ。

頭が上がらないのは、俺だけじゃないだろう。
多分、夏香も、亡くなった千秋もだ。

俺は、春彦が出かけた後、店に来た八重が帰り道で妖かし
に襲われた事や、そのまま意識不明になって数日 眠り続け、
今日の昼頃、やっと意識が戻った事を、出来るだけ詳しく順
序立てて話した。

八重の事をよく知る春彦が「そうか。八重ちゃん、よかったな」
と目を潤ませたので、俺もウルッと来たのだが何とか堪える。

問題は、ここからなのだ。

「さっき……本当に ついさっきの事なんだけど、瑞希ちゃん
 から、夏香が休みを取っていて連絡が取れないって 電話
 があったんだ」

「妙だな。ナツは仕事が忙しくて、今年は休みがないって言っ
 ていたんだが」

「携帯も全然 繋がらないらしい。それに……」

夏香の建てた千秋の墓の話。春彦は知っているのだろうか。

もし、夏香が後ろめたい、或いは、心配をかけたくないと思う
ような事をしていたら、春彦には話せないのではないだろう
か。

「夏香のやつ、自分で ちぃ兄の墓を建てたらしいんだけど……
 知ってた?」

「ナツが? 千秋の?」

目を丸くした春彦が、俺の言葉を拾って復唱する。

「やっぱ、兄貴も知らなかったんだ。俺も、さっき瑞希ちゃん
 に聞いて驚いた」

「ナツが……」

春彦の視線が、時の進んだ日めくりに固定される。
そう、明日は千秋の命日なのだ。
 
 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

ん~、春彦、いくつなんだろう ^^;

多分、40代ですねぇ。冬馬が(一応)35才ですから ^^;
(※千秋は、冬馬の二才上です)

中年にさしかかろうと言う青年を書くのは、本当に難しいです。

実際、お店を弟任せにして釣りって、落ち着きない大人ですよね ^^;





今日はここまで。また時間ギリギリ ^^;

昨日は遅寝だったので、今夜はもう眠ります。

お休みなさい ^^

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2011/10/14 23:38
>Beliver さん
 ある意味、兄弟の中で、一番 のんびりしているのは夏彦です ^^
 釣りが好きな人って、気が長いと思う ^^;(私はじっと待つのは無理
 夏香の建てた千秋の墓には、早く行った方がいいのですが、この兄弟が
 迅速に動いてくれるのかが心配です。
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2011/10/14 23:34
>カトリーヌさん
 冬馬は、流されやすい所があるみたいですぅ ^^;
 鈍い春彦は、まだ何も知りませんから、呑気にしております。
 冬馬は、それに呑まれてはいけないですよね ^^;
 でも、今は電話で“?”となっているだけなので、冬馬も自分の直感だけで
 春彦に「変だ」と言っています。
 冬馬は、これでも勤め人ですから、一応 真面目に働いていますよ ^^;
 久々の休みだと言ったら、春彦に「店番、よろしく!」と ^^;;
 困ったお兄さんです。
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2011/10/14 23:28
>ゴキブンさん
 危機感を直ぐに持てないのは、リアルでもある事だと思いますよ。
 死に直面していても、咄嗟の判断が出来ない事は大いにあると思いませんか。
 でも、ほんの少し前に出る、或いは、後ろに下がる事で何かが変わるかも。
 そんな訳で、今は、夏香の失踪に危機感を持っているのは冬馬だけです。
 ほら、まだ、夏彦は知りませんから……。

 はい、春彦兄さんはモテますが変人です。変態ではないですよ。変人です。
 並みの女性では付いていけない世界にいるので、未だ独り者です。
 まあ、この人は、その内、妖狐の嫁とか貰いそうですけど……^^
 問題は冬馬の方でしょうね。八重のガード、堅そうだし ^^;
 ちなみに、千秋兄さんは、10年前、27歳で亡くなっています。
 スイーツマンさんの指摘にある通り、厳密には亡くなっていると言えるのか、
 謎です。夏香は、そう考えていないと言うのが、今回の……ああ、ネタバレぇ^^;

 今は、男女共に晩婚の時代なので大丈夫だと思いますよ。
 人の目が気になるなら、左手の薬指に指輪をしておくのも手かも。
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2011/10/14 23:16
>スイーツマンさん
 男女の差があれ、やはり年齢が近くなければ書くのは難しいですねぇ。
 通ってきた所は、まだ行けますけど、視点に成人を使うのは大変です。
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2011/10/14 18:00
お兄さんもかぁ。夏香の行動についても、そののろまのところも(=ω=)
千秋さんのお墓と何か、関係あったりするのでしょうかね?
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2011/10/14 00:23
トーマ氏ものんびり屋さんねぇ~(笑)
お兄さんの晴彦さんも、弟に店番させて、自分は釣りへ。
兄弟そろって、労働意欲が低いのかしら(汗)
でも、一応、御山の関係者だしね・・それなりにお役目があるのでしょうね。
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2011/10/13 06:25
兄弟の命日を前に起こる妹の謎の失踪
それに八重襲撃事件と謎の墓
いくつもの謎の事件が重なってるみたいです
春彦も40で独身なのでしょうか?
千秋は37前で他界
冬馬は35でこれまた独身
謎の兄弟に起こる謎の事件、すべての謎は榊家につながっていくのですね
男が40を前に独身だと世間からは冷たい目で見られそうな気がします
家を作文する難しさを感じるゴキブンでした
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2011/10/13 00:12
ある時期の人。年齢がキャラに近づくと書きやすくなるかもしれません
千秋氏、なんとなく生きている感じがするのはなぜ




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