Nicotto Town


藍姫の本棚♪


月虹の海 (1)

ここへ来てから、時間の感覚がひどく曖昧になった気がする。
僕は、いつからここにいるのだろう。

目で活字を追いかけながら、僕は、全く別の事を考えていた。

文庫本から顔を上げ、駅前広場の時計を確認したが、待ち合
わせ時間よりも、十分早い時を差している。
ここへ来てから、まだ五分しか経っていない。

ここへ来てから、まだ五分しか経っていない。経っていないの
だが……おかしい。もう長い事、待っているような気がする。

が、秒針は、規則正しく動いているようだし、暑さで、僕の頭が
どうにかしてしまったのかもしれない。
彼女が来たら、まず何か飲もう。

僕は、再び紙面に視線を戻し、眼球の上下運動を再開する。

が、ページは一向に進まない。
話が全然、頭に入ってこない所為で、同じ所を何度も読みか
えしているのだ。

緊張している……と言う事はないと思う。彼女と二人で会うの
も、もう両手の指以上の数になるのだから……。




待ち人とは、彼女が通う女子高の学祭で知り合った。

彼女は、取りたてて美人と言う訳ではなかったが、明るい笑顔
が真夏の太陽を思わせた。
歳が二つ下なだけなのに、仕草の一つ一つが生き生きと輝い
て見えた……なんて言ったら、年寄り染みているだろうか?

でも、気がついたら、目で動きを追ってしまう。
そんな雰囲気を持った子だった。

その時、僕は、女性と話すのが得意ではなかった事もあり、偶
然、出会った女の子と、こんな風に付き合う事になるなんて、夢
にも思っていなかった。

だから、本当に運命の人と言うのは存在するのだと、素直に感
動していたのだが、僕を心配した友人とその妹が、出会いをお
膳立てしたのだと、後で聞かされて落胆したっけ。

まあ、本当は、友人の妹を……と考えていたようなのだが、人の
気持ちなんて思った通りにはならないモノだ。
僕は、友人の妹ではなく、妹の友人である彼女に引かれたのだ
から……。

そう言う意味で、彼女は、やはり運命の人だったのかもしれない。




などと真剣に考え、勝手にムズ痒い気持ちになった僕は、三度、
本に意識を集中した。

と、栞代わりにと、本に挿んであった彼女の写真が落ちる。
微かに甘い香りがしたような気がした。

やはり変だ。何かが引っかかる。
写真を拾い上げ、本の最後にしっかり挿み込むと、僕は、時計
を見上げた。

秒針は忙しく回っているのに、長針は、ほとんど進んでいない。
まるで、秒針以外の針は、動かないよう固定されているように感
じられて、僕は言いようのない不安に駆られた。

彼女に何かあったのだろうか。電話してみるか?
いや、まだ時間前だ。もう少しだけ、待ってみよう。

僕は、気を落ち着けようと、本に目を落として驚いた。
文字が書かれていない。次のページも、その次も。
パラパラと本を捲ってみたが、白紙のページがどこまでも続い
ているだけだ。

自分でも、息が荒くなるのを感じる。

猛スピードで最後まで行って、また写真がひらりと落ちた。

慌てて拾おうと手を伸ばして、僕は目を見開いた。
季節の花に囲まれて、微笑んでいたはずの彼女に、顔がなかっ
たのだ。目も鼻も口も、眉毛すらない。のっぺらぼうだ。

思わず手を引くと、誰かが写真を拾い上げた。

「ごめんね。待った?」

聞き覚えのある声に、アスファルトの上で止まっていた視線を
上げていく。

サンダル履きの健康的な脚が、風に揺れる白いワンピースの
裾から覗き、肩口で跳ねる焦げ茶色の髪が、小さな動きに合
わせてサラリと流れる。

彼女だ。が、僕は、まともに顔を見る事が出来ないでいた。

「あ、これ、この前の植物園の時の写真!」

「ああ、うん」

「うわっ、不細工な笑い方。持ち歩くなら、もっと可愛く映ってい
 るのにしてよ」

彼女が「はい」と言って、僕に写真を突きつける。
そこに映っていた彼女は、眩しい笑顔に戻っていた。

僕は、パッと顔を上げて、今日初めて、彼女の顔を見た。
そこにあったのは、写真よりも力強く輝く彼女の微笑だった。

 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・

急に、シリアスな話を書きたくなったので、オフザケなしです ^^

題名の “月虹”は、“ゲッコウ” と読みます。夜の虹の事です。

昼間の虹と同じ原理で出現する(陽光でなく月光で出る)白い虹

らしいのですが、私は、まだ見た事ないです。。。

見たら幸せになるとか、ならないとか (●^ ^●)

5話完結予定ですw

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2009/07/01 22:33
>あかつきさん
 毎回、名前を付ける時は すごく悩みます ^^;
 今回も、何度も題名を変えて、最終的に『月虹の海』に決定しましたw

 怖さと物悲しさ……融合させるのは難しいですよねぇ。
 怖い話は大好きですが、怖さを追求したような話が上手く書けなくて…… ^^;;
 少し悲しくて少し怖い話にも、積極的にチャレンジしたいですw
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2009/07/01 22:23
>らんくるさん
 実物は、無理そうなので画像でw
 夜の虹って、本当に色がないんですね。
 これで幸せになれそうです (●^ ^●)
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2009/07/01 18:40
月虹の海、ですか・・・幻想的な雰囲気が強く感じられる題名ですね~

怖さと物悲しさが融合すると、素敵なお話になると思うのです。
私はそんな素敵な、少し悲しく少し怖いお話が大好きですので~(笑)
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2009/07/01 00:58
月虹の画像、見つけましたぁ(*^_^*)
http://photozou.jp/photo/photo_only/11169/2088097?size=800
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2009/06/30 22:58
>らんくるさん
 ある意味、ラブストーリーですねぇ ^^
 しかも、僕も彼女も……ああ、それは次回でw

 私も見たいです。
 でも、昼間の虹以上に見られない物みたいですよ ^^;
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2009/06/30 22:40
(✿-ω-)ゥンゥン♫
ラブストーリーかしら
これからの、展開にきたいです~

月虹~ですかぁ、見てみたいですね
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2009/06/30 22:33
>ゴキブンさん
 やはり、題名にもカナを入れるべきでしたねぇ ^^
 しかも、最初は “月光の海” だったのですが、月光にすると、負や陰
 の暗示が強すぎて、それなら月の反対側に出る月虹の方だ! とw
 名前をつけるのが苦手なので、短絡的・感覚的に行きました。

 怖い話を書こうとすると、なぜか 物悲しくなってしまうのです ^^;;
 ゴキブンさんは、すごいです。
 怖い話は、ちゃんと怖いですから。
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2009/06/30 22:11
題名から驚きです。
読めませんでした。つきにじのうみ。
今までの感覚で読んでいたら、うん、何か違うと思いました。
藍姫さんの解説で救われました。
なにか悲しいお話のような気がします。


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2009/06/30 22:10
>十里瑞希さん
 夏なのでw
 でも、怖い話を怖く書けないのが難点です ^^;
 結構、その手の本も読むのに。。。

 リレー形式だと……どんな方法でUPしますか?
 うぅ~、何か楽しみです (●^ ^●)
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2009/06/30 22:04
オカルト系…w
はたして何がどうなるやらw

やっぱりリレー式ですかねw




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