「ワタシが何とかしてみますね」

わたくしの肩にそっと手を置いた來夢さまが､床を破壊せん勢い
で、ドンと足を踏み鳴らしました。
姉さまも兄さまも、きょとんとした顔で、こちらを見ております。

「二人とも気を乱して、聖域の結界を傷つけないでくださいね？」

「え、あ、そうだね」

「ご、ごめん」

表面上は穏やかそうに見えて、その実、威圧感ある來夢さまの
笑みに、姉さまも兄さまも、黙り込みました。
どうやら、口論は強制終了されたようでございます。

「あの……ごめんなさい」

わたくしは、素直に頭を下げました。
喧嘩の発端は、わたくしにあるのですから当然でございます。

「オレの方こそ、ごめんな。アッキーは、もう小さな子供じゃないっ
　て分かってるのに、つい……な」

言葉を濁された兄さまが、考えておられる事は分かります。

いつも、わたくしを一人の人間として認めつつ、本当の妹のよう
に、お心をかけてくださっている兄さまでございます。

兄さまは、わたくしが早く大人になりたいと思っている事も、無理
に背伸びしている事も、全てご存知の上で、わたくしの悪足掻き
に付き合ってくれているのでしょう。
わたくしを、まだ小さな子供だと思いつつ……。

ですが、わたくしは、月神子。
姉さまから奪ってしまった物をお返しするには、早く一人前にな
るしか道はないのでございます。

一人気負っていた わたくしの頭を 兄さまが軽く撫でられました。

そうされる事は嫌ではございませんが､それこそ“子供扱い”と言
うもの。しかも、わたくしが怒っていたのは、姉さまに対する不実
な態度でしたのに、女心が分かっておられない。

おそらく、兄さまは、誰に対しても、こうなのでございましょう。

「ロクがいいなら、いいけどね」

姉さまが､なぜか諦めたような口調で呟き、わたくしに「大声を出
して、悪かったね」と苦笑されました。

「いいえ､姉さまは悪くありません。全ては六郎太兄さまが、乙女
　の気持ちを解せない不行状者であるが故でございます」

「え、オレぇ？　乙女の気持ちぃ？」

訳も分からず首を傾げる兄さまと、ピンときて明後日の方向を見
る姉さまが対称的でございます。

「さあ、ロクさんが鈍感だと言う結論が出た所で、お夕飯ですよ。
　ロクさんもこちらで？」

來夢さまが何事もなかったように、おっとりと言われます。

「いんや､今日は帰るよ。あまり家に帰らないと、風子さんが心配
　するし」

「そうだね。今後の事もあるし、明日、仕事の前に風子叔母さん
　とも話をしないと。よろしく伝えて」

「うん、分かった」

睨み合っていたのが嘘のよう。姉さまも兄さまも穏やかに微笑み
合っておられます。

來夢さまの袖を引いて、少し屈んでいただき、わたくしは「ありが
とうございます」と耳元で囁きました。

「どう致しまして」

頼りになる参謀が側にいてくれて、わたくしは、改めて心強いと
感じました。

夕餉を頂いたら、早速、わたくし達のお仕事を開始しましょう。
仕事に恋に。当分の間、忙しくなりそうでございます。

　　～ＥＮＤ～
　-----------------------------------------------
(ケンシン　登場人物)

★榊　晶 《サカキ　アキラ》
　　月神子 《ﾂｷﾐｺ》 見習い。
　　瑞希の妹で､六郎太（従兄）を兄と慕い､二人をくっつけよう
　　と画策している……割には、タイミングが悪かったりする。
　　小五だが、大学三年の婚約者がいる所為か、マセている。
　　ミニチュア版 瑞希を小悪魔風にした美少女（六郎太 談）。

☆郷　広道《ゴウ　ヒロミチ》
　　広道は退魔除霊師ではないが、先祖が神剣で神子の護衛
　　をしていた剣臣《ｹﾝｼﾝ》の家系だった縁で、晶の婚約者に。
　　來夢が所属する夢意識研究会の会長でもある。

★榊　瑞希 《サカキ　ミズキ》
　　水の退魔除霊師。
　　六郎太と静花は、母方の従兄妹。晶は、妹。
　　最近､自分の気持ちを自覚したようだが、なぜか､六郎太の
　　想い人は、静花だと勘違いしている。

☆城野下　六郎太 《キノシタ　ロクロウタ》
　　地の退魔除霊師で、犬神を体に宿す。
　　時々、晶の地雷を踏んで妙な事をさせられている。
　　晶も、瑞希や月子には吐けない弱音を六郎太に話す事が
　　あり、仲がいい。

　・・・☆・・・☆・・・☆・・・

終了です ＾＾

字数少なめなので、人物紹介をｗ