Nicotto Town


藍姫の本棚♪


苺と桃と。 ~森のクマさん?~ (12)

<Side.悟瑠>

僕達に気を使ってか、遠巻きにしていた係員が「あちらで、説明
がございますので、お集まりいただけますか」と声をかけてきた。

トーコが顔を上げ、僕に頷く。
僕は、今度こそ、トーコの手をしっかり握り、避難者が集まる場所
へ移動した。

故障の原因は不明だとか、怪我人の対応がどうとか、招待券を
配るからとか、いろいろ言っていたようだけど、どうでもよかった。

なぜって、トーコが無事だったのだ。

ハンカチで涙を押さえているトーコの顔をマジマジと見つめると、
トーコが赤い目で見つめ返してきた。

「何? サトくん」

「気分が悪いとか、どこか痛いとか、本当にないのか?」

「うん、平気だよ」

こっちが癒されるトーコの笑顔に、僕は思い切り破顔する。
もっと顔が良く見えるようにと、トーコの髪を耳に掛けて……僕は、
ふと気付いた。

左耳のイヤリングがなくなっていたのだ。

「あれ、片っぽ、ないな」

「嘘、どうしよう! きっと、落としちゃったんだ」

「森の中で?」

「うん。……見つからないよね?」

「う~ん」

あそこで、こんな小さな物を探し出すなんて、無理だろうな。

「ごめんね。サトくんに貰った物なのに」

えっ、そうだったっけ? 記憶にあるような、ないような。

「そんなのいいよ、気にしなくても。トーコが無事に戻っただけで、
 僕は……」

「うぅ、サトくぅん」

折角、涙の治まったトーコが、また泣きそうな顔になったので、
僕は慌てた。

「そ、それにしても、森でイヤリングを落とすなんて、あれだよな。
 何だっけ、ほら。童謡にあったじゃないか」

「あっ、大変! サトくん、森の中に怪我人が! 熊みたいに大き
 な人で、私に早く逃げろって」

「そうそう! もりのくまさん、だ」

「違うの。そうじゃなくて、体格のいい男の人が、怪我をして中で
 救助を待ってるの」

そう言えば、僕とトーコが離れ離れになった原因、森を逃げ惑う
群集は「熊が出た」と騒いでいたんじゃなかったか?

つまり、その怪我した“熊男”を本物の熊と見間違えたって事か。
人騒がせな。

「大丈夫だよ。そんなデカいヤツが中にいるなら、直ぐに分かる
 から」

「そうかなぁ?」

「今頃、救助されてるさ。そう言えば、ロク達の姿が見えないなぁ。
 電話してみっか」

今の今まで忘れていた。
まあ、あいつなら大丈夫だろうと踏んでいたからなのだが。

「あ、ロクか? 今、どこだ」

『外』

「はい?」

『建物の外だよ。適当に歩いていたら、外に出た』

「何だ、そりゃ」

『いきなり暗くなっただろ? だから、慌てて走り回って、見事に
 迷ったんだよ』

「お前なぁ、暗闇の中で走ったら、危ないだろう。係員の指示に
 従えよ」

幻の熊を見た連中と同レベルか。本当に落ち着きないんだから。

「あ、榊さんは? 彼女も一緒か?」

『うん。瑞希も……大丈夫』

「中で、この度の不祥事の説明してるぞ?」

『あ~、そうなんだ。でも、オレも瑞希も何でもないし、いいや。入
 り口出て、すぐのベンチにいるから、適当に話、聞いといて』

電話を切った後、会話の内容を掻い摘んで聞かせると、トーコ
に少し笑顔が戻った。




 

話を一通り聞いて外に出ると、夜の照明になった遊園地のベン
チに、寄り添うようにロクと榊さんが座っていた。

「おぉ~い、ロク!」

顔を上げたロクが、人差し指を顔の前に立てる。
静かにって事か?

「よっ! 二人があんまり遅いから、瑞希、寝ちゃったよ。疲れが
 溜まってたんだな、多分」

確かに、ぐっすり眠っているようだ。

「そんなに疲れてるのに、誘って拙かったか?」

「いいや、少し息抜き出来たと思うよ。オレは、瑞希、背負って帰
 るけど、二人はどうする?」

「さっき話したんだけど、僕達も帰るよ」

「そっか……。あ、桃姫、そのイヤリング」

馬鹿! 折角、落ち着いたのに……。

「もしかして、これって桃姫の?」

ロクの手には、見覚えのあるイヤリングが乗っていた。

「ロク、お前。これ、どこで?」

「実は迷った時、森に出ちゃって。そこで……預かったんだ」

「もしかして、熊みたいな人? 無事に救助されたの?」

ロクは「ちゃんと帰るべき所に帰ったよ」と意味深な事を言って、
僕の手にイヤリングを押し付けた。

僕が、慣れない手付きで、トーコの左耳にイヤリングをつけると、
心配事が消えたトーコの顔に、やっと曇りのない笑顔が戻った。

 ~ END ~

 ・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・


終了で~す ^^

明日は リレー小説をUPして、明後日は イベントブログをw

クイズも今日から新しいのになるんだっけ? でも、時間が ^^;

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2009/10/31 18:09
>藤名瑞希さん
 どもぉ~♪
 そうなんです。会っていたのですよ。

 実は暗くて分らなかっただけで、その時はクマになっていたんです。
 パニくった人達が見たのは、見間違いではなかったんですよねぇ ^^;
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2009/10/31 02:10
お疲れ様ぁ♪
てかトーコとあの人は会ってたんですね~w

いぁあ…うらy(ry
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2009/10/30 21:36
>ゴキブンさん
 私のキャラの中にノナガセと言う人がいます。一言で言うと、遊び人です ^^;
 彼なら、そんな無防備な女性に対して、少しでも自分を誘う気配を感じれば
 GO! でしょうねぇ~ ^^;;
 でも、ロクにとって、瑞希は特別ですから ^^
 性欲処理のお相手にはなりえません。
 でも、神社に運んだ後、ガラスで傷ついた瑞希の手を……おっと、それは
 秘密でした ^^
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2009/10/30 21:25
>蘭花さん
 イヤリングは、グリーズからロクへ。ロクからサトルへ。
 サトルからトーコに帰りました ^^

 ありがとうございます ^^
 私的解釈『もりのくまさん』でしたw
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2009/10/30 21:21
>スイーツマンさん
 『苺と桃と。』では、それ以上のデータは出てきませんが、
 大男は、間違いなく熊男です ^^
 『退魔除霊師~イヌガミ~』参照です。
 だから、見間違いではないのですよ。
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2009/10/30 13:09
お疲れ様でした。
でも、ものすごく気になるんですが
瑞希は気を失ったままでロクといるんですね
夜、抵抗できないというかさわりほうだいの女性が目のまえに。
ロクいまだ、さわちゃいましょう。

藍姫さんのコメントは、ロクはおくてなので
瑞希を背負って無事に家に帰りました。ですね
つまんない~。です。

お疲れ様でした。
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2009/10/30 11:49
イヤリング戻ってきてよかったですね、トーコ。
「森のくまさん」楽しませていただきました♪
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2009/10/30 03:21
 そうでしたか。吸血鬼でも熊でもなく、身体の大きなけが人だったのですね。
 パニックのもととは案外そんなものかもしれませんねえ。




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