「どうしたの？　早く脱いで」

「えっと……上も下も、全部？」

「いつも、そうしているでしょう？」

「オレ、タチさんの絵のモデルになった事なんてないよぉ～」

どうも、話が噛み合っていないようね。
わたしは、黙って自分の絵を指差した。

「？」

ロクくんが不思議そうな顔をしたので、もう一度、絵を指差す。

眉をひそめたロクくんが、絵の見える場所に移動して、ぱっと
目を見開いた。

「タチさん、これって……」

「その絵のタイトルは『月と踊る者』よ。動物園の “狼” は、イマ
　イチ覇気がなくて……。締まらない絵でしょう？」

「そんな事ないよ。なんて言うか、凄く綺麗だ」

素直で、嘘がつけないロクくんは、本気でそう思っているのだ
ろう。悪い気はしない。

「ありがとう。そんな訳で、今、描きたいのは犬神の方なの。ロク
　くんがどうしてもって言うなら、描いてあげるわよ。勿論、ヌード
　だけど？」

「いや、結構です！」

冗談よ。そんなに力いっぱい拒絶しなくてもいいのに……。

「まあ、いいわ。納得したなら、早速、犬神に変わってちょうだい」

「うん、了解」

ロクくんは、自分でシャツのボタンを外し、ジーンズのベルトを
緩めた。

『犬神、こんな所で変化するのか？』

『部屋が壊れてしまうのじゃなかろうな』

『危険！　避難、避難』

小さな妖かし達が騒ぎ出す。

ロクくんは、部屋を見回して「大丈夫だと思うけど」と、私を見つ
めた。

「そうね。でも、念の為、わたしが結界を張るわ。犬神の霊力に
　よる風は防げるから」

「うん。じゃあ、その辺、少し片付けるよ」

もう一度、戸締りを確認した後、スペースを作り、そこにロクくん
を立たせる。

わたしは、大きく息を吸い込みながら、目を閉じた。

集中力が一気に高まる。
ロクくんの気配、わたしの後ろにいる妖狐達の気配。
全てが手に取るように分かる。

わたしは、目蓋を開き、手を一度、打ち鳴らした。
左右の指の間に、不可視の投げナイフが現れる。
息を吐きながら、ロクくんが中心になるように、立て続けに五本
投げつける。と、妖かしの一体が『おお』と声を上げた。

「封！」

人差し指と中指を立て、空を切るように指刀を振り下ろす。
ガラスのように透き通った壁が、ロクくんを囲んだ。

その顔が やけに不安そうだったので、わたしは出来るだけ明
るい声を出した。

「さあ、これでいいわ。今度は、そちらの番よ、ロクくん」

「あ……うん」

ほぅっと小さく溜息をついた後、ロクくんは、首から下げていた
お守りをくわえた。

ロクくんが瞳を閉じ、次々と手印を結ぶ。

一般に “九字” と呼ばれる物だ。が、作法自体は、オリジナル
なのだろう。
身の内に住まう妖かし “犬神” を呼び覚ます為、人であるロク
くんの力を高めている……と思われるが、本当の所はどうなの
か知らない。

最後の“前”の印――宝瓶印を解き、ロクくんが手を二回打つ。

すると、ロクくんを中心に、風が渦を巻いた。
さながら、小さな竜巻のようだ。

結界が軋み始めたので、わたしは少し力を送り、縛る力を強く
する。

そうしている内に、ロクくんの体が光に包まれ、小さな光の球と
なった。
これ以上は限界と言う所まで縮んだ後、今度は膨張を始める。
次第に、その姿は知っている生き物の形になっていった。

治まりかけた嵐の中心に現れたのは、大きな黒犬……いいえ、
犬と言うよりは狼よね。
その、城野下家の一部の男子に憑くと言う妖かしが、ゆっくりと
目を開ける。

右目はロク君と同じ薄い鳶色で、白銀色の金属のような左目は
獣のように無感情だ。

わたしが、この姿を目にするのは、これで三度目になる。
はたして、今、そこにいるのは、人間の六郎太なのか、妖かしの
犬神なのか。

わたしは、自分が思う方の名を呼んだ。

「……ロクくん」

「やばっ！　コンタクト、外すの忘れてたぁ！！」

空気がふっと軽くなる。

「それなら、シャツの上に落ちているわ」

「ああ、よかったぁ～。オレの犬神七つ道具 “色付きコンタクト”
　が無事で」

そうね。本当に……よかった。やはり、ロクくんだった。

「さぁ、スパートかけるわよ。気合入れて、ポーズとってね」

「うん、ドォーンと任せといて」

時計の針は、丁度七時を回った所だった。

　・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・☆・・・

色についての説明が、他の人では出てこないので、小太刀の視点で

入れてみました。特には、ロクの瞳の色でしょうかねぇ～ ＾＾




青ガチャスタートｗ

ドリ券ばかりですが、今回のアイテムは可愛いです ＾＾