『秘武器つかっ！　かっ、兼光……殿？』

教室に戻り、お夜食のお弁当を食べていたときの事。
ずっと静かにしていたイチローが、急に わたしを呼んだ。

口に食べ物が入っていた わたしは、視線だけをそちらに向ける。

ジーッと、わたしを見上げる妖かしの目は、感情こそ読みにくい
が、全く無感情と言う訳ではない。
咀嚼しながら、ふっと思いついた わたしは、お弁当のオカズに
目を走らせた。

妖狐は、普段、何を食すのだろう？

仕事の前日には生臭物を食べないので、メインとなる副食は残っ
ていたのだが……。
わたしは、箸で潮鮭をつかみ、イチローに差し出してみた。

『否、そう言う事ではなく……』

それならばと、ミートボールを取ると、『食べ物の無心ではない
のだ』と、撫で肩の妖かしは一層、肩を落とした。

「何？　どうかしたの？」

『犬神の様子が、少し、その……否、我の思い過ごしであれば
　よいのだが……』

「そう、お前もそう思うのね」

『“も”？　それでは兼光殿 “も”？』

「そうね。でも、わたしだけではないわ」

『？』

「他の子達も……特に同じ学校の子達は心配して、朝から電話
　だの、メールだの、引っ切り無しだったから」

今は静まっている携帯電話には、瑞希《ミズキ》 さまや螢都《ケイト》
さん、來夢《ライム》 さんからの着信記録が山のように残っている。

『なるほど。それで “犬神の寝姿” をメェルで、みなに送ってい
　たのだな』

「あら、気付いていたの」

妖狐は、狸寝入りもするのね。狐なのに。

『うむ。ニローとサンローは眠っておったようだが、我は……』

「それより」と、わたしが話を遮ると、イチローが小さな体を強張ら
せた。目が泳いでいる。

何だろう、この反応。恐れ……ではないわね。
おそらく、ロクくんについて、わたし達、人間では知りえない情報
をつかんでいるのでしょう。

「ロクくんがどうしたって？」

『我はただ、犬神が何を憂えておるのかと思うただけで、別に口
　止めされている事とか、秘密にしている事とかある訳では……』

なるほど、ロクくんに口止めされている秘密があるのね。

イチローは、三兄妹の中で一番、好奇心と向上心が強い。
静花さんに仕える前から、人の世について学んでいたと聞いて
いる。

風俗、文化、そして、人の心。

妖狐族は、なぜか人と番いたがるけど、その中でも、イチローの
人好きは筋金入りなのだろう。
特に、犬神憑きのロクくんは、妖かし達から一目置かれており、
イチローも懇意にしているように見える。

ロクくんがイチローに相談したとは思えないけど、妖かし連中は
意外に情報通なのだ。

「わたしに分かる事なら教えて上げられるけど？」

『な、何を？』

「それは、わたしが聞いているの」

イチローは、窓の外の闇に目を細めた後、足元に転がる木炭を
前足で転がし始めた。

『例えばの話。我は、己を “天狐” だと堅く信じておるのだが、
　或る者に “お前は鎌鼬だ” と言われたとする。すると、どう言
　う心持ちになるものかと……ずっと思案している』

「え？」

可笑しな例えだ。そんなの悩むほどの事はないではないか。

「イチローは妖狐……年経たモノは “天狐” と言うのだったわね。
　お前は、どこから どう見ても天狐よ」

『否、見た目は天狐だが……我の尾に、よく切れる鎌が付いて
　おったら？』

「まぁ、鎌がついているの？」

『ついてはおらん。例え話だ。我は正真正銘、天狐よ。だが、例
　え話の場合、我は何になるのだ？』

自分を決めるのは、見た目か、持っている属性かと言う事？
それが、ロクくんの話と、どう つなが……ああ、そうね。

人間の外見と、犬神に変身する能力。
ロクくんが人か、妖かしかと言う問題なのね。

「天狐でも鎌鼬でも、イチローはイチローでしょう？」

『それは……そうなのだが』

「日常に障りがないなら、決めなくてもいいのよ。わたし達 人間
　にだって、同じ者は存在しないわ。よく似ていても、全く同じと
　言う事はないの。でも、人間だわ」

『だが、もし、我と同じ姿で “鎌鼬” と名乗るモノがおれば、そや
　つは我の仲間か？』

それでは、まるで “犬神憑き” が他にもいて、その者は “自分
は妖かしだ” と言っていると取れるのだけど……。

まさか、ね。

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小太刀、当らずも遠からず ＾＾

イヌガミ＆ヤモリ参照と言う事でｗ




さて、今日は、これから駆け足ステプに出発です ＾＾

お家に遊びに行く約束なので。。。

あ、30分頃になるかもしれませんが……。