チルファン
- カテゴリ:自作小説
- 2011/06/11 22:51:11
外伝1-2 二人は洞窟へ向かうようです
「さあ、お前の罪を数えろ」
「ネトゲのモンスターに罪を数えさせてどうするんるですか……」
いきなりどこかの探偵の台詞を言ったのはカズヤ。突っ込みを入れたのはサヤだ。
二人はクエストを受けた後、街の来たの門から出て例の洞窟へと向かった。
そしてその洞窟の入り口でモンスターに出会ったのだ。
モンスターは馬ヘッド、蝙蝠アーム、鳥レッグを持つシャンタク鳥だ。名前が『ひ弱なシャンタク鳥』な辺り、強化版のいそうな気配がある。
シャンタク鳥は二人に気づいているようで、羽ばたき宙へと舞い上がる。そしてこちらへと近づいてきている。
「さあて、稼ぎますか」
「稼ぐと言うか……普通に倒してくださいね?」
そう言いながら、二人は戦いの準備をする。
サヤは虚空から弓を取り出し矢を番える。「弓はどこから取り出したの?」と聞いてはいけない。なぜならここはゲームの中だからだ。
カズヤは鞘から剣を引き抜く。間違ってもサヤから引き抜いてはいない。そんな事をしたら「世界を革命する力を!」と言わなければならない。
「行くぜ行くぜ行くぜぇー!」
そう叫ぶと同時に、カズヤが駆け出す。
それと同時に、サヤが三連続で矢を放つ。シャンタク鳥は一本目を上昇することで避け、二本目を身を翻すことで回避し、三本目は口で咥えて受け止めてみせた。
受け止められる事は予想外であったものの、サヤはダメージを与えるつもりはなかったので何も問題ない。全ては時間稼ぎのためだ。
サヤが矢を放っている間に、カズヤはシャンタク鳥の下のあたりまで来ていた。シャンタク鳥の真下から数メートル離れた位置を走っている。
「必殺! 俺の必殺技パート1!」
そう叫ぶと同時に、足に力を籠め、地面を全力で蹴る。
それは現実では有り得ないほどの跳躍を生み、カズヤはシャンタク鳥より更に上空へと舞い上がる。
「『全力跳躍からのエターナルブレイズスラッシュ』!」
なんともセンスのない技名を叫び、剣を高く振り上げ――
「セイッヤー!」
足に炎を纏い、どこかのヒーローのような飛び蹴りの姿勢になる。そして蹴りでシャンタク鳥の身を貫く。
そのまま落下しながら体勢整え着地する。シャンタク鳥の方を振り返ると、カズヤに数秒遅れ炎に包まれたまま地面へと落ちてきた。
よく見てみると、シャンタク鳥はまだ動いている。カズヤは「まだ生きているのか……」と呟き、メニューを開きアイテム欄からある物を取り出す。
それは――形容しがたきバールのような物。
「さあ、振り切るぜ」
そう言うと同時にシャンタク鳥へ駆け寄り連続打撃を開始する。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁッ!」
何が無駄なのかと言うと、カズヤが「無駄」と言うこと自体が無駄である。
やがてシャンタク鳥は肉片となり、辺りへ四散する。バールによって開かれた傷口からは桃色が見え、ビクビクと動いている。そして赤より深い紅は、ドクドクと流れ出て辺りへ悪臭を撒き散らす。その情景はまるで地獄と言うに相応しい。――などと言う事はなく、全年齢のゲームなので光の塵となって宙へ舞っていった。
「9.8秒。それがお前の絶望までのタイムだ」
「あそこまで弱った敵を倒すのにどれだけ時間をかけてるんですか……」
もっともな事を突っ込み、やれやれと手を額に当てる。
「いや、なんとなく」
「なんとなくなら普通に剣でやればいいじゃないですか……」
「……ごめんなさい」
なんとなく謝ってしまう。サヤに対して弱いカズヤであった。
「さて、今回の稼ぎは……っと」
シャンタク鳥が消えた辺りを見てみると、一つのタマゴがあった。
「おおっ! シャンタク鳥のタマゴじゃないか! これレアアイテムだぞ! ……いや、ここはあえて俺達が食べるか? 美味いらしいぞ?」
「なんで食べただけでSAN値がガリガリ削れそうなものをわざわざ食べるんですか? 食べるなら一人で食べてください」
サヤは拒否するが、カズヤはなお食べるように説得する。
「いいかサヤ、伝説は塗り替えるものなんだぞ? 今アクセルを解き放てばいいんだよ」
「私は私のままであればいいんです。……ああ、カズヤくんに釣られてとうとう私もわけが分からない発言をしちゃいました」
「始まりはいつも突然なんだ。気にするなサヤ。とりあえず隠密行動の時にケータイの電源を切る事を心掛けるくらいの気持ちで変わってみろよ」
「まるで特定の誰かの事を言ってるみたいですね? 彼は優秀ですよ。ケータイの電源を切り忘れる事以外は」
その『特定の誰か』が誰なのか分かっているサヤは、とりあえず突っ込みを入れておく。
「まあいいか。じゃあこれは売るぞ? 今度収入の半分をサヤに渡すからな」
「ええ、それでいいです。最初からしうしていてくれたらなぁ……」
最後のほうはカズヤに聞こえないように小声で言う。
そんなこんなで、いつも通りの二人であった。