外伝1-3　二人は洞窟を冒険するようです

「洞窟大作戦のデータが吹っ飛んだ時の絶望感は異常だと思うんだ」
「そうですね……。SFCのゲームはデータが消えやすいですからね……。全キャラの全職業の熟練度を最大まで上げたドラクエ6のデータが消えた時は泣いちゃいました……」
　某ゲームをやった事がある人ならば誰でも思うことを口にしたのはカズヤ、それに合意したのはサヤだ。
　二人はシャンタク鳥を倒した後、目的の洞窟へと入って行った。
　辺りの空気は冷えていて、それは夏の川の水のような心地よさがあった。
　既にそれなりに奥の方まで来ているので光は届かない。偶然にもカズヤが『たいまつ（消費アイテム　効果：暗闇に明かりを生み出す）』を持っていなければ一度街に戻らなければならなくなっていたであろう。
「さて、と。確かこの洞窟のモンスターにペンダントを奪われたんだよな。……一般人がなんでこんな所に来るんだろうな？」
「……デートでしょうか？　でもデートにしては殺風景だし危ない場所だし……謎ですね」
　今回のクエストの依頼主の行動に疑問を抱きながらも、二人は奥へと進んでいく。
　時折現れる雑魚モンスターを倒しながら数分歩いていると、分かれ道が現れた。RPGのダンジョンによくある左右に分かれているタイプのものだ。
「あー、どっちに行く？　サヤが決めてくれ」
「……間違った時の責任逃れをしようとしてますよね？」
「いや、そんなつもりはないぞ？」
　そう言いながらも、カズヤはサヤと目を合わせようとしない。明らかに嘘を吐いている人間の行動だ。隠すつもりなど無いらしく、いっそ清々しい。もしくは、ただのバカなのか。
「そんなこと言うなら俺が決めるぞ？　いいのか？」
「なんですか……その妙に不安になってしまうような言い方は。――あれ？　今なにか聞こえませんでしたか？」
　すっかり忘れ去られている設定であろうけれど、サヤは狐耳のアバターを装備している。それによって聴力が一般のキャラよりも良くなっているのだ。
「そうか？　俺は何も……」
「しっ。今、確かに何かが――」
　――テケリ・リ！　テケリ・リ！　テケリ・リ！
　――テ！　ケ！　リ！　テケリテッケッリ！
　それは、まるでどこかのヒーローの変身の時に流れる歌のようなものだった。そう、例えるのならば基本フォームなのに活躍できそうに無い、そんな感じの歌であった。伝説を塗り替えた古代の戦士の基本フォームはしっかりと活躍していたというのに、この差である。
「カズヤくん。これって……」
「ああ――なんでタジャドルじゃないんだ！？」
「そこですか！？」
　カズヤの答えに対し、サヤは思わずツッコミを入れる。
「どう考えても――ガタキリバじゃない事が問題でしょう！？」
　否、サヤも同レベルであった。
「なんだサヤ、お前はウヴァさんのメダルが好きだったのか」
「……カズヤくん、あれは単にボケてみただけですよ？　私がどれだけツッコミを頑張ってるか分かってるんですか？　たまにはカズヤくんがツッコミをしてくださいよ。
　それに……あの鳴き声はどう考えても形容し難い生物のものじゃないですか！　あれは右から聞こえてますね。左です。絶対に左に行きます。右が正しかったとしてもそっちにいったら正気を失ってしまいます。右に行くならカズヤくんだけで行ってください」
「サヤ……後半の言葉はホラー系の作品で死ぬ人間が言いそうな言葉だぞ？　良い言葉ではない。全く感動しない。だから無意味だ」
「ああ！　もう！　だから前半でたまにはツッコミをしてくださいって言ってるじゃないですか！　泣いていいですか？　なんだか虚しくなってきました……」
「悪かった。だから泣くなって。それじゃあ突っ込むぞ――やっぱシャウタだろ」
「……もういいです。カズヤくんに突っ込みを期待した私が間違ってました……」
　カズヤに突っ込みを期待することは諦め、左側の通路へと進んでいく。
　カズヤもその後ろに続き、通路へと進んでいく。

　実は右が正解――などということはなく、左が正解だ。明らかに某神話を知らなければ正解を導けない。
　右を選んだ人間の末路は……語らないほうがいいだろう。
　そして、二人がクエスト達成のためのアイテムを見つけるまであと10分。
　そして、二人が『絶望』に遭うまでの時間も――あと10分。