Nicotto Town


零崎儚織の人間摩擦


4話 すごいよ!! 大神さん

「はい、これで問題ないでしょ?」
 人でも獣でもない彼女は、そう言った。
「最悪だこの阿呆がとっとと元の姿に戻れそして土下座しろ俺に謝れなんで学校でその姿になってるんだよ緊急事態でもないのに一般人にその姿を見せる気か誰が苦労すると持っているんだ記憶を消せる俺と黒姫だぞお前はもう少し緊張感を持てトラックでバックして轢き殺すぞ」
 一息。
 それだけの言葉を言い切り呼吸をする。肺の中の空気を出し切った後の一息は新鮮であった。
 更に数呼吸。それによって感情を落ち着かせる。
 再び彼女を見据え、言葉を発する。
「とりあえず――元に戻れ」
 当然の言葉を言い切る。
 それは矢となり大神へと向かう。
 矢は大神の胸へと刺さり、そして
「えー? この姿になったりあの姿に戻ったりするのちょっと疲れるんだよ? ……面倒くさいなぁ」
 彼女の心を、何一つ変える事は出来なかった。
 何を言っても無駄だと悟り、黒間は武器を変える。
 常識と言う武器では効果が無い。
 ……ならば。
 と、思考し言葉にする。
「ならば――服を着れば、今日の晩飯は唐揚げ四つだ」
 黒間が選んだ武器。それは、晩飯のメニューだ。
「うー……。もう一声」
 それは今度こそ大神の心を動かした。
 付け入る隙はある。ならば、
 ……ここから畳込む。
 そう判断し、黒間は更に
「ならば三つだ」
 条件を厳しくした。
「なっ! 減ってる!?」
「ふん、最初の条件で満足しないからだ。自業自得だ」
 黒間はそう言う。
 ならば、と大神は反論する。
「なら……服着ないよ?」
「ならば今晩は野菜中心のメニューにするか。俺は構わんぞ? 損をするのはお前だけだ。あ、女に二言は無しってことで四つはもうナシな」
 人狼である大神は肉を好む。それ故に肉の出ないメニューだけは避けたかった。
 大神は、う、とも、ぐ、とも聞こえる呻りを上げる。
 そして大神は諦め、降参の意思を告げる。
「分かったよ……三つでいいよ」
「よし、賞味期限ギリギリの肉があったから調度良かった」
「私は都合の良い生物処理機ー!?」
「ふむ、よく理解しているな。その肉欲のままに、あの熱いのを口に含むがいい。」
「肉欲の使い方が間違ってる気がするなぁ……」
  苦笑し、仕方ないなと言う。
 大神は目を閉じ、深く呼吸をする。
 それと同時、全身の毛が短くなっていき人の肌が出てくる。
 そして変形していた骨格も元に戻る。顔は人間のものに、そして尻尾も消えてなくなる。
 そこに残ったのは、全裸の大神だった。
 大神を注視していた黒間はそれ見てしまい、顔を背ける。
 恥ずかしかったためだ。見ている此方が。
「んー? クロってエッチな本とか沢山持ってるのに私はダメなの?」
「……そんな本持っていない」
「それじゃあエッチなゲームとか」
 その言葉に対し、黒間は反応する。
 背けていた顔を大神の方に向け、そして
「あれはエロゲーではない、ギャルゲーだ! どれだけエロかろうとも十八禁シーンは無い! それにエロゲーと同タイトルだとしても、それは全年齢版だ! 俺はしっかり規則を守っている!」
 叫ぶ。
 それは先ほどのように大神の心を動かすことはできなかった。
「ふーん。……じゃあ、『規則を守っている』ということは、十八歳になったら買うの?」
 逆に、大神に叫びを『武器』にされる。
「…………」
 無言。
「どうなの? 答えてよクロ」
「…………」
 なお無言。
「吐いた方が楽になるよ? ほら、ポッ○ーあげるからさ?」
「俺は子供ではないぞ……?」
 そこで沈黙を破り、言葉を発する。
 大神の釣り方に若干呆れながらようやく落ち着き、大神の全裸を見ていたという事実を再認識し、また背ける。
 今回は顔だけでなく、全身でだ。
「だからとにかく……服を着ろ」
「はーい」
 そう言い、大神は歩き出す。服のある方へ。
 それは黒間がいる方向と同一であり、服へ至るには黒間の横を通らなければならない。
 彼の横を通り過ぎようとした時
「――――」
 何を思ったのか、突然立ち止まる。
 そして体を九十度向きを変え、そして
「えいっ」
 黒間に抱きついた。
「――――!?」
 突然の大神の行動に黒間は困惑する。
 心を落ち着かせるために、まずは状況を整理する。
 ……服を着るためにこっちに来た大神が、何故か俺に抱きついた。
 そこからして理由が不明だ。
 現在分かる事実は他にはないのか? と思考し
 ……でかい。軟らかい。温かい。
 ふと、こうして誰かの体温を感じるのはいつ以来だろうかと考える。
 だが、彼の頭はその事実を認識した瞬間にショートする。
 ……でっかくて軟らかくて温かくて大神で全裸で生徒会長で親の知り合いの子で肉好きで野菜嫌いで昔は野菜を食べさせると泣いて怒って殴られてやり返したら殴られてそれがループして結局俺が負けて――!
 あ、と少し声を出す。それは力なく消える。
 そして
「あれ? おーい、クロ?」
 彼は倒れた。




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