5話 這いよらないで! 大神さん
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/15 11:22:05
「クロ、大丈夫? おーい」
その声の届く先、そこには一人の少年がいた。
黒間だ。
黒間は先ほど頭がショートし、結果、意識を失った。
倒れ地面にぶつかるはずであった体は、大神に抱かれ倒れるずにすんでいる。
大神は彼が突然に倒れた理由がわからず唸っているものの、とりあえずは横にしようと思い行動する。
……なんで倒れたんだろ? 昔は大丈夫だったのに。
昔を振り返り、一緒に風呂に入った事や同じ布団で寝た事、嫌な事をされたら反射的に黒間を殴っていた事を思い出す。
流石に殴っていたのは悪かったかな、と反省し、だが今更謝るのもどうかと思うので胸の内に秘めておく。
ゆっくりと足を床につけ、次に腰、背と順々に下ろしていく。
最後に頭を床に近づけ、そっと床と頭の間から手を抜こうとし、
……床との間に何かを入れた方がいいかな?
そう思い、辺りを見回す。
ふと目に入ったのは自身の通学用バッグ。そこからスポーツタオルを取り出し適当に折りたたみ、黒間の後頭部と床との間に入れる。
とりあえずやるべき事はやったと思い、大神は一息つく。
そしてまじまじと黒間の顔を見る。
その行為から生まれるのは過去の記憶だ。
……目を閉じてると、少しは昔に似た顔になるなぁ。
過去の彼と照らし合わせると、今の彼は少しクールな印象がある。
だがそれは表面だけの話で、少し揺さぶってみれば過去の彼の面影が見え隠れする。
だが、過去と現在では決定的に違うところがある。
「泣かなくなったなぁ」
呟き、再度確認する。
昔は事あるごとに泣いていた。
それは苦手な食べ物が出たとき。それは虫が服についていたとき。それは大神が彼を殴った時。
……クロも成長したって事なんだろうね。
彼が泣かなくなったと知ったのは、五月の再開の時だった。
■
あの時の大神は、五年ぶりにこの町に訪れた。
その理由は転校のためだ。
親同士が仲の良かった二人は、子供の頃からよく一緒にいた。
一時期はこの町に住んでいたこともあり、その時はお互いの家に泊まったこともある。
そのため、転校後の大神は黒間の家に居候する予定であった。
転校のためにこの町を訪れた日、大神は電車の乗り間違えのせいで昼に着く予定が夜に到着してしまった。
到着したことをメールで知らせると、『今駅に向かっている。あと十分くらいで着く』との返事が返ってきた。
昼に乗り間違えをした事をメールで知らせたときは、黒間は駅にいたらしい。
なので、彼は自宅から駅を無駄に往復してしまったことになる。
それなのにもう一度駅まで来てくれるということは
……相変わらず優しいなぁ。
昔からそうだった。
大神が何か失敗をした時は、黒間が慰め、黒間が手伝い、時には黒間自身が自分で失敗した事にした。
今になって思い返すとそれは黒間に甘えていただけだと思う。だから、子供の時ならともかく
……私も成長して、クロに甘えないようにしないと。
それは黒間だけが成長した事に対して遅れを感じたかもしれない。
だから、遅れを取り戻し、共に並んで立てるようになりたい。そう思った。
「それにしても遅いなぁ」
時計を見てみると、十分どころか二十分も経っている。
これは流石に遅すぎじゃないか? と思い至った時に、ふと転校する理由を思い出す。
……まさか――。
その理由から考えれば、「まさか」は現実の可能性があった。
そう思った大神は駆け出す。黒間を探すために。