6話 這いよれ! 大神さん
- カテゴリ:自作小説
- 2011/08/17 15:53:09
深い闇の中、疾走する影が一つある。
それは路地裏にある箱を蹴り飛ばし、時に飛び越える影だ。
駆ける目的はただ一つ。己の友を探すため。
頭にあるのはその目的だけ。一つに絞られた目的はその者に力を与えた。
……クロ!
その力を使うことに、影は一瞬のためらいを見せる。
その力を使ってしまえば、影は
……クロが、友達じゃなくなってしまうかもしれない。
それでも、と影は思う。
たとえ己の姿が変わってしまっても
……クロは、友達でいてくれる気がする。
だから信じよう。友達を。
だから使おう。力を。
そう思い、駆ける足に更に力を込める。
力を爆発させ、飛ぶように突き進む。
前へ進むと同時に、影の姿が変わりつつあった。
まずは全身が毛で覆われる事から始まった。
それはまず四肢の先端から始まり、徐々に体の中心へと向かい、終には頭部へと至る。
それは銀の毛で、ふと暗闇に舞い降りた月光を受け光を放つ。
次の変化は骨肉の変化だ。
骨は軋み、人と獣の中間の形へと変化する。
全体的に元の姿よりも大きく強く、しかし太さは感じさせず、重鈍のイメージは無い。
手足の爪は長く伸び、そして厚くなる。獲物を狩るための武器だ。
足も獣のそれに似た形になり、より強く地を蹴る事を可能にする。足の変化が終わると同時に靴は破れ、残骸が影の後方へと取り残される。
最も変化が大きいのは顔だ。
耳は左右両側から頭の上側へと移動し、二等辺三角形となる。
そして口と鼻は前へと突き出し、それに合わせて歯は牙となり、数が増える。
鼻は黒く、若干の湿り気を帯び、そしてその辺りからは数本のヒゲが生える。
腰の辺りから尻尾が生えるが、ズボンを穿いているせいでそれが外へと出ることは無い。
そして変化が終了した影は、人と獣の中間の姿をしていた。
「――――!」
咆哮。
それは獣のものであったが、それに込められた感情は
……クロを、助ける!
一人の人間の少女のものであった。