Nicotto Town


零崎儚織の人間摩擦


7話 這いよる! オオカミ

 暗闇の中に響くのは、二つの音であった。
 一つは靴が地を蹴る音。
 その音を立てるのは一人の少年の足だ。
 黒間だ。
 もう一つの音は、鳥の羽ばたきに似た音だ。しかしその音は、鳥のそれよりも大きく、そして重たい。
 その音の持ち主は、宙を舞っていた。
 姿は人型。ただし、背にあるのは蝙蝠の如き翼だ。
 それは翼を羽ばたかせ黒間を追うが、しかしそれに全力の色は見られず、むしろ遊んでいるかのように力を抜いているようにも見える。
 余裕がある。
 それは翼の持ち主が強者であることの証明でもあり、そして
「――!」
 地を走る黒間が弱者であることの証明でもあった。
 ……なんでこんな事に……。
 気がつけば、暗闇の中にいた。
 そこは路地裏で、そして背後には翼を持った者がいた。
 それを目にした瞬間、反射的に逃げたが、それは正解だったようだ。
 追われ続け、どれほど時間が経っただろうか。
 相手は時に少し距離を詰めるが、基本は一定の距離を保って着いてくる。
 ……それは俺の体力を削って、それで絶望のどん底に落としてから最後に殺すといった所か。
 殺されるかどうかは分からない。だが、相手に悪意があるのは明白だ。ならばそれくらいは思っていた方がいいだろう。
 だから逃げ続ける。少しでも終わりから遠ざかるために。
 幸い相手は余裕を持っている。隙があるということで
 ……今逃げきるか、誰かが助けに来てくれれば……。
 だが、前者は絶望的だ。
 裏路地から出ようと試みた事は既にある。
 だが、いつの間にか裏路地へと戻ってしまっていた。
 そして相手は空を飛んでいる。人型であるにも関わらず、だ。
 そこから分かるのは、
 ……魔法なり超能力なり、そういったものを使えるんだろう。
 そしてこの裏路地から逃げ切る事はできない。
 できるのは、誰かの助けを待つことのみ。
 ならば少しでも時間を稼いだ方が良いだろうと思い、少し速度を落とすが、
 ……近づいてきている?
 相手はこちらが速度を落とせば近づいてくるらしい。
 つまり、元の速さで走るしかないということだ。
 もう一度速度を上げる。だが
 ……もう、息が。
 黒間は何かスポーツをやっているわけでも、体力作りをやっているわけでもない。
 帰宅部で、家に帰れば宿題をやり、夕飯を食べ、そして遊び倒した後に寝るという自堕落な生活を送っている。
 そんな黒間に、それ程の体力があるわけでもなく、
 ……あ。
 と、気づいた時には既に足の動きは乱れ、つまづき、そして地面へと倒れる。
 倒れた黒間はもう一度立ち上がり逃げようとするが、
「足が……」
 足は震え、力が入らなくなっていた。逃げなければどうなるか分からないと、頭では理解している。
 だが、体は疲れに素直であった。
 少しでも前へと、腕を使い前へ進む。
 だが、それは走るのに比べてしまえば雀の涙ほどのものでしかない。
 羽ばたきは徐々に大きくなり、自身の背には翼を持った者の視線を感じる。
 ……もう、無理か……?
 すまない、と心の中で呟く。
 それは、駅で待っているはずの彼女へのものであった。
 もう、会えないかもしれない。
 彼女に守られる自分が嫌で、彼女と会えない五年の間は強くなろうとした。
 力を得ることはできなくとも、せめて心だけは強くあろうとした。
 だが、ここにきて生きる事を諦めてしまった黒間は
 ……結局強くはなれなかったか。
 背の方から、羽ばたきの音が少しずつ大きくなっていくのが分かる。
 少しずつ近づかれている。
 もう無理だ、と諦めるが、ふと過去の記憶を思い出す。
 それは小学生の頃の記憶だ。
 昔、黒間は泣き虫で、それが原因で虐められていた。
 そんな時助けてくれるのは、いつも大神だった。
 大神は黒間を殴る時以上の力で虐める者たちを殴り、黒間を助けた。
 今も大神が助けに来てくれるんじゃないかと思うが、
 ……流石に大神でも、無理だよね。
 だが、それでも――
「綺麗ちゃん……」
 それは無意識に出た言葉で、昔の呼び方だった。
 視界が歪む。
 何故だろうと思うと、頬に熱を持った液体が流れたのを感じた。
 泣かないと決めたのに、と黒間は思うが、それでも涙は止まらない。
 腕で涙を拭おうとする背後、黒間を狙う者はすぐそこまでに近づき
「……?」
 黒い影に阻まれた。
 影の形は人型。だが、全身は毛で覆われ、体の形も違う部分がいくつかある。頭部は特に人間と異なっており、耳は頭の上側にあり、口と鼻は前へ突き出ている。
「お待たせ、クロ」
 その影は、黒間を助けに来た少女のものであった。

アバター
2011/08/17 22:45
ハハハそこいらの獣耳とか尻尾程度で「ケモノかわゆい」とか言われてるキャラとは違うのだよ。
しっかりケモノっぽ行動をしてこそ真のケモノキャラ。しっかりと特徴を生かした行動を書ききることができるように頑張らなくては……。

この文章は電撃文庫のまロい人(ルビは川上・稔さん)の文章を意識しています。
……あれに似せようとした場合、戦闘シーンがすごいことになってしまう(ry
アバター
2011/08/17 22:32
ケモノ属性だぁ☆((

いいッス。雰囲気とかいいと思いますb



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