Nicotto Town


零崎儚織の人間摩擦


8話 這いよられた! 黒間さん

 翼を持つ者の動きは、大神の前に突き出した両腕によって阻まれている。
 大神は翼を持つ者の両腕を掴み、そして
「――ふんっ!」
 そのまま押し返す。
 押し返された者は、バランスを崩し、一度地面へと降りる。
 その時を待っていたとばかりに、大神は前へ駆け出す。
 足音は無い。足裏の肉球により音は消される。
 音の無い高速の接近は、翼を持つ者の反応より早く攻撃を生み出す。
 右腕を振り上げ、五指を大きく開く。
 それぞれの指先にあるのは獲物を狩るための爪だ。
 大神はそれを相手の左肩から右脇へと振りぬく。
 それは相手に爪による傷跡を残す。
 五本の線から飛び散るのは血。その色は――
「紫……?」
 呟くのは、戦いかの部外者となってしまった黒間だ。
 既に涙は引き、感情は落ち着いている。
 それは大神が来てくれたという安心感からもたらされるものだ。
 だが、
 ……あの姿は?
 異形の者と戦う大神の姿もまた、人のものではなかった。
 それは一言で言い表すのであれば人狼のものだ。
 もしかしたらあれは大神ではないのかもしれないと思う。
 だが、自分が大神を大神だと分からない訳がないとも思う。
 ならば己は勘違いなどしていない。
 あれは大神だ。
 大神は戦っている。
 ……たぶん、俺のために。
 昔からそうだった。昔から守られてばかりだ。
 だから役に立ちたいと思う。
 できることならば大神と肩を並べて戦いたいと思う。
 だが、黒間には力が無い。
 大神の命が危なければ、身を挺して守ろうとは思う。
 だが、それ以外には出来る事は無い。
 無闇に戦いに参加すれば、
 ……邪魔になるだけだ。
 くそ、と黒間は思う。
 結局は力なのか、と。
 力がなければ守るどころか肩を並べることすらできないのか、と。
 しかしそう思う黒間を置き去り、戦闘は進む。
 大神に傷を負わされ、翼を持つ者は一瞬よろける。
 だが、すぐさま翼を背後へ引く。
 そして両の足を縮め、屈んだ状態になる。
 そこから生み出される動きは、翼を前へ羽ばたき、両足を一気に伸ばし上空へと向かう飛翔だ。
 暗闇から光ある場所へ出、その姿がはっきりと映し出される。
 青の肌を持ち、髪の色は紅。性別は男だ。そして顔には少しシワが見え、若くはない事が分かる。人で言えば、三十、四十台辺りだろう。
 翼を持つものは距離をとり大神と相対する。
「悪魔……なんでクロを狙う!?」
 大神は問う。
 その問いに対しての答えは、
「それほどの男……他の奴らには取られたくない!」




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.