くじは一回百円らしい。小さな穴の開いた縦長の箱に番号の書かれた棒が入っていて、振って棒を出してその棒に書かれていた番号の引き出しからおみくじを取り出すらしい。お金は人ではなく、近くに置いてある賽銭箱のようなものに入れるようになっている。……金を払わずに取り出す人間がいそうだな。
　しかし俺は真面目にお金を払う人間だ。というかこの世界、本当に神が存在するのでちゃんとお金を払わなかったらどうなるのか恐ろしい。生徒会にも天使がいるし、神を馬鹿にしたら即刻天罰が下るだろう。……黒姫に天罰が下る時は、性的なものになりそうだ。
　箱を振ってみると、三十四番と書かれた棒が出てくる。その番号の引き出しをからおみくじを取り出してみると、そこには
「……大凶か」
「やった、大吉だ」
　どうやら大神は俺の真逆を引いたらしい。
「ふっふっふ、一年の始まりから大凶って幸先が悪いね？　私の幸運を分けてあげようか？」
　大神は調子に乗ったらしい。にやけ顔でそう言ってくる。
　おみくじが何だと言うのだろうか？　おみくじだけが全てではない。おみくじが神からのお告げだとしたら、人間はそのお告げに従うのか？　断じて否。お告げに従うなど愚の骨頂。運命は自分で切り開く物だ。他人に決められた運命に意味などない。大神に出会えたのが運命のおかげだとしても、俺は運命などなくても大神に会えたと断言しよう。
　それに、
「一年の始めから運を使い切ったな」
　そう、こんな所で運を使い切る事の方が愚かだ。
　何故大吉を引く程度の事に運を使わなければいけないのだろうか？　そんなことに運を使うくらいならば、大凶を引く方が遥かにマシだ。逆に考えればここで運を使わなかった分、後で得をするだろう。
「いや……確かにそう考えられなくもないけどさ、なんでそう捻くれて考えるかなぁ」
「捻くれてなどいない」
　どこが捻くれているのだろうか？　俺はいたって冷静に考えて発言しただけだが。まあ、大神はバカだから俺の発言を曲解しただけだろう。
　そういえば運が良くなる方法が書かれたところを読んでなかったな。
「えーっと、大雑把にまとめれば『彼女を作れば運が良くなる』か。……ふむ、無理だな」
「うわー、男子高校生が彼女作るの諦めてるよー。夢がないねぇ」
「いや、俺が恋愛に興味がないだけだ」
　そうだ、なんで彼女なんか作らなければならないのだろうか？　作るための努力も面倒だし、作ってからの努力も面倒だ。俺はのんびりと過ごしたい。故に彼女は必要ない。
「周りに彼女持ちが生まれてくる中、一人だけ彼女がいないのって寂しくない？」
「……何の話だ？」
「いや、私達のクラスって割とカップルが多いんだよ？　三分の一くらいは彼氏か彼女がいるよ」
「ほぅ、初耳だな。だが俺には関係ない。何故なら俺はゆっくりと過ごしたいからだ。ゆっくりと過ごすのには彼女など必要ない」
　そういえば大神は恋愛に興味はあるのだろうか？　クラスの恋愛情報を知ってる辺り、少なくとも俺よりは興味があるはずだ。
　大神は見た目だけならなかなか良いし、彼氏を作ろうと思えばすぐに作れるだろう。
　バカではあるが、性格も悪いわけではない。むしろ誰とでも分け隔てなく接する事のできる性格だ。見た目だけでなく、中身まで含めて好きになってる男がいてもおかしくはない。
「……で、大神は恋愛には興味ないのか？」
　仕返しに、俺は大神に聞き返してやった。
「ん？　興味ないよ？　まさかクロは私の事が……」
「いや、それだけは無いから安心しろ」
　確かに俺は大神が好きだが、それは恋愛的なものではなく、尊敬に近いものだ。
　肉体的にも、精神的にも強い。そんな大神に憧れていた。小学生の頃にずっと守られっぱなしだったのも影響しているのだろう。
　守られてばかりなのは、今でも変わらない。だから俺と大神とでは釣り合わない。
「んー、そうハッキリと言われるのはそれはそれで悲しいなぁ」
「大丈夫だ、嫌いではない」
「え、それじゃあ好きって事？」
　このまま「そういうわけではない」と答えていたら、無限ループに入ってしまうだろう。
　仕方ないので、俺は大神の頭にチョップを一発かましてやった。