Nicotto Town


零崎儚織の人間摩擦


新月の空 3

「アタシ達の目的は――悪の組織を根こそぎ壊滅させることだ!」
 馬鹿だ。ただ正義に狂っているだけだ。
 人を助けることで喜びを得る人間はいる。が、人を助けるためだけにわざわざ新しいギルドを作るなど――馬鹿げている。
 しかし馬鹿げてはいても力があるのは確かだ。たった二人でここまで来るというのは並みの人間に出来る事ではない。
 こんな狂ったやつからはとっとと逃げるに越したことはない。今もまた摺り足で少しずつ後退している。
 それなりに距離は取れた。女は決めポーズを取ったり宣言することに夢中で男の後退に気づいていなかった。
 順調にいけばあと少しで、隠し通路まで十秒あれば辿り着けるほどの位置まで後退できる。
 そう思ったせいで油断したのか、足下の石を蹴り飛ばしてしまう。
 夢中になっていた女も流石に気づいたのか、男との彼我の距離を測る。明らかに先程よりも離れている。
「ん? アンタどんどん離れていってないか?」
 バレた。仕方ない。もう隠す必要はない。敵に背を見せ全力で走り出す。
 嫌だった。まさか、これほどに規格外な連中と出会うことになるとは思ってもみなかった。戦闘能力の高さで有名なギルドに襲撃されることはあったが、それでも壊滅した事はない。何故ならば、送り込まれる襲撃者に化物レベルの人間がいないからだ。
 この組織は人攫いの組織の中でも中の上といった程度のレベルだ。組織の幹部など、ちょっと有名なくらいの組織に出向くはずもない。
 だが目の前の女は、大手戦闘ギルドの幹部クラスの化物だ。どうしてそんなやつがわざわざこんな所にいるのか。
 ……いや、よく考えれば当然なのかもしれない。どの大手ギルドだって無名だった頃があるのだ。その頃に相手にしたのは、恐らく自分達のような『ちょっと有名な組織』だったはずだ。化物に狙われないように中の上の位置にいたというのに、化物の卵に狙われると言うのは盲点であった。
 せめて逃げなければ。最悪でも部下を弔うまでは逃げ切るのだ。
「ディース、何をやっているのですか。とっとと追いなさい」
 女――ディースの隣の辺りから声がする。若い男の声だった。姿を隠す魔法を解いたらしい。表情は、どうしてこうなったのだと呆れている。
 それもそうだ。名乗りや決めポーズに夢中にならなければ、相手が少しずつ退いていることに気づけたはずだろう。
「お前、気づいてたんなら矢で止めを刺せよ」
「生憎、矢はさっきの一発で底を尽きましてね。魔法もありますが、知っての通り私のものは少々派手すぎる」
「だったらアタシに教えろよ」
「話しかけたら貴女は私の方に向くでしょう? そうすれば相手は何処に私がいるのかがばれて『見えない何者かがいる』というアドバンテージがなくなりますからね」
 二人が話している間にも、ボスは逃げる。隠し通路は正しい道を通らなければ串刺しか、穴に落ちるか、それとも潰されるか。とにかくその結末は『死』意外にはありえない。
 更に正解の通路にも魔術的なトラップも用意してある。これは特定の人間の以外の魔力、つまり組織の人間以外の魔力を感知した時に爆発するトラップだ。
 つまり間違った道を通ろうとも正しい道を通ろうとも、追ってくる者は死ぬ意外にありえないということだった。
「仕方ないなぁ。それじゃあアタシが少し本気を出さなきゃいけないじゃないか」
 やれやれと、自分のせいであるのに左手で頭を掻きながら右手で剣を持ち上げる。
 剣はなかなかの大きさで、刃は女の腰より少し上の辺りまでの長さがある。片刃の大剣で、斬るというよりは重量で潰すことで攻撃とするタイプのものだ。
 女は柄に左手を添えることなく右手のみで大剣を持ち上げる。身体強化の魔術を使っているのだろう。
 腕は片の高さ。体を捻り力を溜める。
「ふんっ」
 右脚を前へと踏み出しながら、腰の捻りを加えた一閃。ただ振るだけではなく魔術を使い強化することも忘れない。
 次の瞬間、轟きと共に壁が崩れ去った。
 どのような罠も、どのような魔法も、圧倒的な火力の前では無意味であった。
「まあ、こんなものか」
 ディースはいつの間にか、柄に手を添え刃を床に突き立てる姿勢に戻っていた。
「おーい、生きてるかー?」
 別に死んでいても問題ない。助けた子供達が、この組織を壊滅させた証拠となる。生きていたならば『生け捕りにする実力がある』と思われて更に知名度アップ、そうなったらラッキー程度にしか考えていない。
 しばらく経っても特に反応が無いので帰ろうとすると、ようやくボスの声が聞こえた。必死に瓦礫を持ち上げて隙間を作っていたらしい。
 聞こえた声を注意深く聞いていると、どうやら足が挟まって動けないらしい。この惨事でよくその程度で済んだな、と思う。
「お前の選択肢は二つだ」
 とりあえず、言っておく。
「まずはそこで死ぬ事。もう一つはアタシに助けられて、街に戻ったら自首すること。さあ、どっちがいい?」
 ボスは答える。
「助けて……ください」

アバター
2012/03/11 20:05
今回は回りにある物から名前を取っています。 例:DS→ディース
彼の正体は今のところぜんぜん重要じゃありませんが……w まあ、次回でちゃんと書きまけど。
いいえ、単なる文字数制限です。

ほむらの足が挟まった所ってありましたっけ?
……ワルプルギスの所でしたっけ?
アバター
2012/03/11 19:08
ふむ、姐さんの名前はディースさんというのか…(^ω^((殴)
そして部下かと思いきや何やら偉そうな男。して彼の正体は…!!ってとこで次回に突入ですか(・ω・`)
これがジャンプとかサンデーで使われる焦らし戦法ですね…!!

そして「足が挟まった」でまどマギのほむらを思い出した私は…(^ω^;)



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