新月の空 4
- カテゴリ:自作小説
- 2012/03/12 10:00:36
ボスを捕まえたことで一件落着――とはなったりはせず、ボスを依頼屋に引き渡さなければならない。
逃げ出した子共たちの枷を外すために鍵も探したりした。ボスが素直に在り処を白状したのですぐに見つかったが。
そして泣きじゃくる子供たちをどうにかなだめ、ようやく街へと帰れる。
「まったく、あんな大振りな攻撃をして。私が魔術を使うのと大差ない結果だった。天井が崩れ落ちてきたらどうするつもりだったんですか」
ディースの無謀な行動を咎め、男は憤りを露わにして言う。男の言う通り、あんな柱ごと破壊するような攻撃をすれば二人も生き埋めになった可能性が高い。
「ああ、そのことか。割と新しそうな建物だったから十年前の"大災厄"からの教訓で、そう簡単に崩れないように補強してあると思った」
「……ちゃんと補強されているという確信はあったのですか?」
「いや、アタシの勘だ」
ディースのこういった大雑把な所は、男の頭痛の種であった。しかしこの大雑把さが強さに繋がっているとも思っているので、強く言い返すことができない。
――そして何よりも、言った所で直しもしないでしょうからね。
出会った頃は事あるごとに注意していたが、今となってはこのやり取りはお決まりの会話となっていた。
「だがまあ、子供たちに死体を見せてしまったのはマズかったな」
「一応、私がある程度は見えない場所に隠しはしましたけどね」
この女は、妙に素直に反省するときがある。そのせいで憎みきれない。
叱っても流される。憎もうとしても憎みきれない。どうしようと手の届かない相手。それがディース。
それは感情的な部分だけでなく、単純な戦闘能力もだ。男もそれなりに腕に自信はあるが、それでもディースには敵わないと思っている。
「さて……ロトラ、今回の報酬はいくらだっけ?」
「二十万プルーほどです。私達にとっては簡単でしたけど、普通のギルドだとちょっと割に合わない額じゃないですかね? 彼らの実力もなかなかのものでしたし、私としては二十五万ほどが妥当かと」
「なるほどな。じゃあ生け捕りにしたことだし、ちょっと吹っかけてみるか」
「依頼屋からの印象が悪くなったら困りますのでやめてください。それと、既に私が交渉して二十二万プルーにしてもらってます」
ちゃっかりしてるな。と返されるが、こうしなければディースが吹っかけていただろうからやっただけだ。
彼女の相棒をするのは疲れる。色々と。
雑談をしたり後ろについてくる子供たちを気にかけたりしている内に、だいぶ街に近づいていた。出発したのは昼だったが今はもう日が暮れている。
ギルドを作って初めての仕事を終えたのだと思うと、達成感がある。だがこれで満足はしない。
それぞれ、あの程度の組織を壊滅させるには十分すぎる力を持っている。二人で協力しているのは互いの目的を達成するためだ。
知り合って数年経つが、まだ互いの目的は知らない。何故なら、まだ話すべきではないと思っているから。
協力が必要な時に目的を話すと、そう決めている。
だが、目的を達成するにはギルドを作ることが必要だということはお互いに知っている。
ギルドを何に使うのかは知らないが、それは聞かない約束だ。
そして今日、目的を達成するための一歩を踏み出した。どのような方向へと向かっているのかは分からない。だが、それは確実な前進だった。
ギルド作りのために走り回ったのは昨日で終わりだ。今日からは目的のために走るのだ。
復讐か、誰かを救うのか。目的を果たす日は近づきつつある。
空を見上げると、ギルドの名とは真逆の真ん丸い月が昇っていた。
楽しんでいただけて幸いです。
毎日更新を目標としているので、宿題に追い詰められない限りは毎日投稿する予定です。
拙作ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。
こういうお話好きです。
楽しんで読ませていただきました。