新月の空 5
- カテゴリ:自作小説
- 2012/03/14 00:51:09
誘拐された子供が家に帰す手筈が整うまで、依頼屋の施設で預かることになった。しかし、家に帰りたくないという子供もいる。売られた子供がいたからだ。。
一家を惨殺するよりは、金で買収する方が楽に済む。そして騒がれないから、追っ手が減る。どうしても抵抗する時は皆殺しだ。
買収を断っていたら殺されていたと分かっているものたちは、複雑ではあるものの親を許せた者もいる。
しかし、分かっていても許せない。信じていたのに裏切られたと思っている者もいる。その一人がティシィだ。
何があっても絶対に味方になってくれると、そう思っていた。
「個人的には貴女を止めたいのですが」
「私には必要なことだ。それに本人の同意を得る。何の問題も無い」
そう言いながら街を歩くのはディースとロトラの二人だ。
太陽が昇り小鳥がさえずる午前十時。朝の静寂も薄くなり、活気づいてき始めている。
周りには二人と同じようにどこかへ向かう者が多い。二人の目的地は依頼屋。なので同じ方向に流れる人は多かった。
依頼を請け、準備を整え出発する。目的は昨日の二人と同じ戦いか、それとも単なるペット探しか人探しか。はたまた農家の手伝いか――。
今回の二人の目的、いや、ディースの目的はどれでもない。攫われた子の中の、帰りたくないと言っている子の中に目的の人物がいるのか調べに行くのだ。
ダメならダメで諦める。だが、できることならここで協力を得られる人物を確保しておきたい。
それは時と空間を操る力を持った人物。そう、“時空魔術師”の 力を持つ――。
◆ ◆ ◆
貴女に会いたと言っている人がいるの。そう言われティシィは顔を上げた。
そこにいたのは、依頼屋に預けられた子供達を世話しているお姉さんだった。いつも柔和な笑みを浮かべている、見るからに優しそうな人物だ。
人攫いの依頼を解決した後は攫われた者たちを依頼屋で保護することがある。その時にだけここで働いているらしい。
「はぁ」と、一応肯定に聞こえる返事をし、話を聞く。
どうやら、ティシィを雇いたいと言っている者がいるらしい。
――時空魔術師の力を狙ってるの?
そう考えるが、ティシィは魔術を使えない。今までに習う機会がなかったから。
気になって質問すると、会いたいと言っている人物はティシィを雇うつもりでいるらしい。
会うか会わないか悩んだけれど、家に帰らない場合はここで暮らしていくしかない。ならば、一応会ってみるのがいいだろう。
「既に知っているだろうが、アタシはギルド『新月の空』の長をやっているディースだ。そっちのが一緒にギルドを立ち上げたロトラだ」
ディースの隣に座っている男は「どうも」と頭を下げる。それに対してティシィも「始めましてと」と礼をする。
「既に分かっているだろうけれど、アンタの“時空魔術師”としての力を借りたい」
「……僕は、魔術を使えないのですが」
「ああ、分かっている。その上で雇いたいと言っている」
どういうことなのだろうか。興味は惹かれるが、それは自分自身ではなく“時空魔術師”を求めているようにしか聞こえなくて、少し嫌だった。
その事が分かったのか、笑みを作りこう言った。
「別に“時空魔術師”として協力するのが嫌ならそれでいい。その時は別の奴を頼るさ。
ただ、ウチのギルドはまだ二人しかいなくてな。どちらにしろ誰かを雇おうと思っていたんだ。この機会にそっちも探そうと思ってな」
つまり、この街での働き口が見つかるということ。“時空魔術師”として協力するかどうかは決めかねるけれど、どちらにしろどこかで働かなくてはいけないのだ。ならばこれは良い機会ではなかろうか?
とりあえず、どんな仕事か、どれくらいの給料なのかを聞くことにする。
「仕事はウチの拠点の掃除や受け付けが主なものだ。料理ができるなら、それも頼みたい。
給料は月々十万プルー。住居はウチのギルドの部屋を提供しよう。それと食費もこちらが出す。いちいち個別に食料を買っていたら保存が面倒だ。食費と住居をこちらが出して十万なのだから、なかなか良い仕事だと思うが」
確かに良いと思う。というか、食費がなくなり、住処もある。他の家に帰らない子に比べるとかなり恵まれている。
だが、怪しくも思う。言ってしまえばただのお手伝いなのだ。それが食費を向こうが負担して住居も提供すると言っているのだから、疑うのは当然だ。
「……もしかして、すごく大きい屋敷だったり」
「狭さを感じない程度には大きいが、一人で掃除するのが無理って程じゃない」
「……自分だけ、食事の量が少ないとか」
「そんなイジメはしない」
「……じゃあ」
「怪しい誘いではない。なんなら、そっちのニアに聞いてみろ」
お姉さんの方を指差す。ニアと言う名前らしい。
「え、私ですか?
ええ、数年前から付き合いがありますが悪い人ではありませんよ」
割と信頼できるお姉さん――いや、ニアさんもそう言っている。
働かなければいけないのだし、楽そうで給料の良いこの仕事でいいだろう。
だから、返事はこうだ。
「ならば、お願いします」
数百万の稼ぎのはずが数千万の稼ぎにまで跳ね上がっています。
変更の理由は、数百万程度だとリスクが大きい割りに収入が小さいと思ったからです。