＃－1　　星の蒼原



　本当にあたしを助けに来てくれる騎士様なんて…居ないのかな…。
　――“ヴァシカのことは俺が守るから”。――
　実際に言われた言葉じゃないのは痛いほど分ってる。
　でもあたしはその言葉に、惑わされてしまった。
　凄く嬉しかったし、本当にゲームの中であたしを何度も助けてくれた。
　現実世界とゲーム世界。
　二つの世界の区別――彼方には分る？
　あたしにはもう分らない。
　あたしが“本当に好き”なのは、現実世界のナイトなの？ゲーム世界の、ナイトなの―――？
「………好き、だよ…あたし……」
　いつも冷静なのに、からかうとすぐに赤くなって怒っちゃう君が。
「あーあ…。なんか面白いことないですかねぇ」
　そんなことをただ冗談で呟いたつもりだったのに。
　右腕をのせ左手で頬杖を突いていた、ちょっと古くて錆びた手すり。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ギシッ
「えっ？」
　手すりのどこからか、嫌な音が聴こえる。
「…」
「…、…誰」
　背後に、誰かが居る。
　あたしは馬鹿だった。
　“手すりを背にして”振り返ると、そこには――
「ッ！理佳――！な、なに、してんの、こんなッところで――！」
　理佳は何も言わない。
　ただ黙って、あたしを見ているだけ。
　なのに、その無機質な表情。
　人形のように冷たくて、感情が感じられない作り物が、堪らなく恐ろしい。
　左手に握られているギラギラ煌めく何かが、恐怖心を煽り立てる。
　誰よ、あんた。
　理佳の顔したアンドロイドか。
「選バレシ、四人ノ勇者ヨ」
「――ッ？！」
　四人の、勇者…？
　あたしは恐怖のあまり反射的に後ろに回していた手で手すりを掴んでいた。
　冷や汗がとめどなく溢れ、背筋が凍る。
　息がまともに出来ない。
　何で自分が、こんなことだけでこれほどまでに戦慄しているのか、最初は分らなかった。
　原始的な恐怖が全身を震わせる。
　心臓の鼓動が際限なく上昇していく。
「ダークバスタートシテ、今、旅立テ」
　ダーク、バスターとして…？
「――は、ははッ！なに、言ってんの理佳？あた――ッ…あたし、先、帰る、ね？」
　過度の錯乱で本当に呼吸が奪われかけていた。
　舌を噛みそうな勢いで早口に言うと、
　あたしは理佳もどきに不気味な薄ら笑いを向けながら手すりから離れようと…――
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ガンッッ！
「――ぅあ゛…ッッ？！！？」
　理佳もどきの、氷のような手が、あたしの首を締め上げる。
　押さえ込まれた拍子にあたしが手すりを押した力と、理佳の押さえ込む力で、老朽化した手すりは悲痛な軋みをあげる。
「…ぐぁ…あ゛……り…か――！！」
　なんとかして搾り出した台詞は、これだけ。
　片手だけなのに、恐ろしい握力だった。
　視界が歪み、息が詰まる。
　――なにが起こってるの？
　あたし、死ぬの？
　親友に殺されるんだ？
「……かは…ッ――」
　最後の吐息が、零れた。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ばきっ
　
　――あたしが最後に聞いた音は、あたしの命を奪う音？
　ばきっ。
　だって。凄く安っぽくて、寂しい音、だね。

　屋上の足場から、あたしの足の裏が離れてゆく。
　背中の支えが消えて、不思議で不快な自由落下の感覚。
　透き通った青空が霞んで、視界を流れる背景。
　あたし、本当に死ぬんだね。
　だってここ四階だよ？
　頭から落ちたら誰だって死ぬよ――
　あーあ…まだ、まだやってないこと、やりたいこと、たくさんあったのに―――な。

　

　魅紗という少女が世界の全てを諦めて、目を瞑った、

　――――その時だった。

























へーい！こんばんはｗ
もしかして今回の、ホラー小説並に怖かったんじゃ？((いい気になるな

…すみません；

ではー。