Nicotto Town


小説日記。


【アリスサークル/短編】





#-無表情な吸血鬼と無愛想な時計屋さん。




このまま一生サーカスの豚小屋の中で過ごすのが俺の末路だと思っていた。
気持ち悪い牙や爪を付けさせられて、見世物として笑われ続ける。
俺がいつ何をしたって言うんだと己が身を呪うのも馬鹿らしくなって来た頃、
もはや自我さえ希薄になって心が壊死してきたのがわかったがどうでも良かった。
なんだかもう、何もかもどうでも良かった。


たとえ逃げられたって、どうせ行くアテもない俺にはこのどうしようもない豚小屋がお似合いなんだ。


それでも豚小屋を見張っている看守とサーカスのオーナーへの恐怖心だけはいつまでも消えずに、
日にちは愚か年月の感覚さえ失って、季節の暑さ寒さだけが〝まだ〟性懲りもなく生きているんだと知らせた。
そのうち、怯えることにさえ疲れ初めて。



でも死ぬのは怖かった。


だから、いつまでもしぶとく生き続けた。
それこそゴミ同然の食事しか与えられなくても、
味なんか感じずに喰えば生きていけるんだと、俺は物心ついたころから学習していた。

嗚呼、俺がここに居ると自覚したのはいったいいつの記憶だろうか。
汚い言葉ばかり発する看守を見よう見まねて、気づいたら喋れるようになっていた。
それでも滅多に喋る機会なんてないから声を発するべき喉は掠れて、
鞭を打たれて悲鳴しか吐き出さない。

そうさ、俺の名前は、 よんひゃくななじゅうきゅう 。



クロウなんて名前、知らない――――






目の前に見知らぬ女がいた。
そいつは間延びした妙な喋り方をしていて、半分魂の抜け掛かった俺には、
そいつが何をしているのか理解できない。
銃撃の音が、わんわん頭の中で響いていた。


脳に刷り込まれた景色を離れて、女は俺を連れ去る。
豚小屋が遠ざかっていくのが、何故か死ぬほど怖かった。


今にも連れ戻されて、今度こそミンチにされると思った。



でも違った。
女の名前はステラと言った。
そして俺に勝手に名前を付けた。

毎日、飽きもせずに「クロウ」と呼ばれた。



「クロウ、時計の組み立ての仕方はいい加減覚えましたかー?」


時計なんて正直興味なかった。
でも拒否することができない俺は、ステラとかいう時計屋の女に従うしかなかった。

「……俺を馬鹿にするな」

毎日見る景色が変わってから、いったいどれだけの日が過ぎたのか。
最初の頃こそ俺はミンチにされることに一日中怯えていたが、やがて薄れ、
もう連れ戻されることはないんだと安心してしまってから、

口答え、というものを覚えた。

だからステラにはいつも、看守やオーナーに逆らう事の出来なかった腹いせをするように憎たらしく口答えしていた。
でも、心の中ではいつも感謝していた。


なんで俺をあの豚小屋から連れ出したんだ、と訊いたことは無い。
野暮だと思ったからだ。
運命の悪戯なんて信じる趣味はないが、これも俺の物語なんだろうと思うことにした。


やがてステラは、俺が15になったとき唐突に俺の前から姿を消した。
――15というのは、ステラが勝手に俺の見た目から判断した年齢だ。


言い残した言葉は、たったの二つだけ。


「時計屋を継いでください」

「クロウ、あなたはもう一人立ちできる年齢です。
   森のみんなと仲良くして、元気に生きやがってください」


前者は、言われなくてもしようとおもっていた。
世捨て人だった俺をここまで育ててくれたステラへの、せめてもの恩返しをしたかったからだ。


だが後者は、

――死んでも守る気なんてなかった。


「……はぁ?俺にあいつらの仲間になれってのか?
  赤の女王に媚びへつらって、いつお互いに殺しあうかわからないってのに
  お茶会だなんてままごとみたいなことしろってのか?!
  ふざけるなよ。いくら師匠の言うことだって誰が聞くかよ!」

俺は自分でも驚くくらいに腹を立てていた。
そして椅子を蹴倒し犬みたいに牙を剥く俺を、ステラは引っ叩いた。

「あなたはお師匠様の言うことが聞けないんですか?
  そうですか。失望しました。もう勝手にしてください」

俺は言い返すことも出来ずに、その翌日何の挨拶も無しに姿を消してしまったステラを恨んだ。
同時に、一生かかってでも謝りたいと、深い後悔に苛まれた。


それからせめてもの罪滅ぼしに、時計屋を細々と続けた。
時計の修理依頼や注文は案外あって、暇になることはあまりなかった。

報いをしたいと思っていた。

だからいつかは、近いうちに森に行こうと思っていながら月日は流れてしまって――、


一年が経った。
15になった俺は、結局踏み出すことさえ出来ずに時計だけを作り続けていた。
性懲りもなく、閉じこっていた。


だが唐突に、店の扉が叩かれる。



「――あの、すみません」


凛と澄んだ声だった。
意志の強さを感じさせるのに、妙な威圧感と同居するのは、〝脆さ〟。


パッと見て、綺麗な人だと思った。
同姓の俺でさえ目を奪われるほどスタイルが良くて。
とりあえずその人を現すなら、黒髪ロング・巨乳・美人。
長い髪がとりわけ目を惹いた。
ここまで髪を伸ばせる人もそうそういない。
きちんと手入れしていないと、すぐに髪なんて傷んでしまうものだ。


「……ご用件は」

でもそれを悟られないように、カウンター越しにわざと低い声を出した。
抜けるような白い肌ですぐにその相手の役がわかる。
吸血鬼――、ヴァンパイアだ。


「ここ、どこだか、訊いても、良い、ですか」


やけにたどたどしい喋り方だった。
見た目が見た目なだけに、残念なレッテルが貼られる。
それに+して無表情だから、余計にどう接して良いのかわからなくなる。

典型的な口下手。
綺麗な薄水色の瞳が、不安げに足元を彷徨う。


「え。あー……不思議の森のちょっと手前にある場所ッスよ。
   俺もたいしてここら辺には詳しくないんで」
「そう、ですか。……、」
「はい」
「……」


そして、妙な沈黙。
なぜかヴァンパイアは口を閉ざしてしまう。
俯いたまま店を出て行くというアクションも見せない。

俺はたまらず声をかけた。


「どうかされましたか」
「えッ、あ、……」
「時計のご注文ならショーケース自由に見てってください。たいしたもん置いてませんが」
「ッ……、ごめん、なさい」

――また、来ます。


「え」

言い残して出て行った。
俺は反応に困ってしばし固まる。

また来るのか。
まあ良いけど。


……だが、いつまで経ってもヴァンパイアは来なかった。

来ないまま三日が過ぎ、一週間が過ぎて――、


「あ、どもッス」

来店。
と、彼女はなにやら手荷物を持っていて、

「……ぇ?あ、良いんスか?でも、俺、」
「食べて」

カウンターに、無造作に可愛らしい小包を置く。
その淡い黄緑色の瞳が恥ずかしげに伏せられて、口許が小さく動いた。

……あれ?この間と目の色が違う、ような、

「さよなら」

「あッ、」


虚しく店の呼び鈴が鳴る。
名前も知らない不思議なヴァンパイアは、こうして毎日、俺の元へ来てくれるようになって。
妙な関係が生まれた。



*****


新生クロウ、もといティアーと、エンドさんの不思議な関係。
※乙女ゲームではありません。

文字数があばばなので続きになります。
明日か明後日にでも書ければなーと。
夢飼い。も書きたいのでね。

( ただ書きたくなって書いただけなんて、言えない…… )



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2013/01/21 22:16
>椿さん

まるで下手な初恋のようですよねwww くっ付いても良いぞくそうwwry
私もです……笑 生み出しておきながら傍に居て見守ってあげたいw


是非どうぞ!笑
ただしクロウは無愛想かつ噛み付きクセがあり、エンドさんは極度の人見知りかつツンデレですw
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2013/01/21 22:01
いいですねぇ。この二人の関係。
影から見守ってたくなりますw

・・・この二人凄くかわいいんですが、持ち帰ってもいいですかね?←

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2013/01/20 20:49
>流ちゃん

くふふw持ちつ持たれつな微妙な距離感ですw
元祖俺キャラ!笑
だが女だ!というテンプレが欲しい

ふへへかわゆいだろうかわゆいだろう!ww


師匠!尊敬してます!なんていえるか!←
いえいえ!こちらこそありがとう´` 勝手にごめんねorz
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2013/01/20 20:06
あばばばばーwww
なにこれかわいいんだけどww
途中で新生クロウが女の子と言う事を忘れてしまった事故、え? だって話し方がイケメンだったんだもん
しょうがないじゃなぁ~い

だが女の子同士とみるとまた違うかわいらしさが見え隠れしてうふうふw


ステラがお姉さんで師匠って呼ばれているなんていつもとは全く違って新鮮でした!
あとうちの子出してくれてありがとう



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