Nicotto Town


小説日記。


夢飼い。【18】



Story - 2 / 7


誰かを呪うのは簡単だ。
でも、救うのは、どうして大変なんだろう。


外れてしまったネジを回収するなら話は早い。
僕は血眼になって探したに違いない。

やがて落ち着いた乾に背を向けて、僕にパイプ椅子を勧めてくれた虎崎さんは
一昨日のように乾のベッドに腰を降ろしてティッシュを差し出してくる。
ありがたく、もとい無感動に受け取るとよだれを拭く気にもなれずに、

「……虎崎さん。乾は、どうしたんですか」

どうしようもないことを聞いてみる。
当然答えは、

「後遺症です」

道化のように、この人はまた笑った。
或いは当然のように。

目をそらしようも無い事実なんだと、改めて知り。
のろのろと服についたよだれを拭き始める。

なら僕はどうしたら良い?
なんにもできないのに。
馬鹿の一つ覚えみたいに傍に居れば良いのか。
それで、こんなになった乾を、見ていろって、言うのか。

それとも僕が単に、この場所に来なければ良い、話なのか。

「虎崎さん。僕は、どうしたら良いですか」

だから訊いてみる。
どうしようもないことを。

「傍に、居てあげてください」

それは至極当然のように聞こえた。
それが義務であるかのように。
でも僕はそう言ってくれるのを期待していたのかもしれない。
だって、ほら。

意味ができた。

僕の望む、〝しなきゃいけないこと〟。
そうなればこれから、僕はこの場所に来なければならなくなる。
気負えるようになる。
あれをやれ、これをやれ。
指示されなくちゃ何も出来ない僕に、ぴったりの仕事。

「見守ってあげるだけで、良いんです」

黙り込んでいる僕をどう思ったか、虎崎さんの続ける言葉は重いような、軽いような。
その崩されない笑みの裏に、虎崎さんが隠すものは見破れない。
〝大人〟だな、と思った。
これが〝大人〟か、と思った。
だけど僕には〝大人〟なんて言葉の意味はよくわからなくて、曖昧で。
二十歳を過ぎれば〝大人〟になれるのか、違うのか、正直言って判別不能だ。

「……良いんですね、傍に居るだけで」
「はい」

——傍に居る。

どれだけの重みを持つのか理解できない。
それとも重さなんてないのかもわからない。
でも、それは重要な事で。

きっと乾は、〝大人〟にはなれない。
きっと乾は、〝社会〟に出られない。
この真っ白な箱庭から、出られない。
それはもう、死んでいるも同然なんじゃないか。
生きている意味はあるのか。
もし植物状態になってしまって、延命装置で無理やり生かされて、
大人にも、〝人間〟にもなれない乾は幸せなのか。
——そんなわけない。

道徳だとか、人権だとか。
結局のところ、綺麗事でしかないような気がする。
自分の身を守るために、勝手にそう言っているようにしか思えない。
少なくとも、僕には。

だからいつか乾に死が訪れて、それは僕にとって、
悲しむべき事なのか、喜ぶべき事なのか。

少なくとも死ぬ事によって、乾はこの箱庭から解放される。
描けもしない真っ暗闇な未来を見ることももうしなくていいし、
味気の無い病院食からも、窓の外の見飽きた景色からも解放される。

良かった、と思えるのか。
そもそも死って、やっぱり何なのか。

僕にはまだ、わからなくて。

「虎崎さん」
「何でしょう?」
「今日は、帰ります」
「そうですか」

虎崎さんは笑顔で見送ってくれた。



*****

昨日のブログにコメントくれた方、ありがとうございます……
連絡も兼ねてあとがきです。

新しいPCはどうなるか正直わかりませんw
でもきっと、次のテストが終わるまでには買ってもらえるかなーと。
つまり多く見積もって4月までには。

戻ってこられると……嬉しいです……orz


それでは、応援してくださった、今これを読んでいるあなたへ。
精一杯の感謝を。

ー糾蝶ー





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