Nicotto Town


小説日記。


夢飼い。【20】





Story - 2 / 9




いっそわかりやすく弱音を吐いてくれれば、僕だって少しはわかろうと思ったのに。
君がそれ以上近づいてほしくないなら僕だって近寄らない。
なのにわかりやすく寂しそうにするから傍に居ようとすると、君は僕からすり抜けて行く。

君に今まで嘘を吐いてきた僕だけど、君が吐いた嘘は見破れなかった。

単に僕がわかりやすい嘘を吐きすぎたのか、君が思った以上に嘘を吐いていたのか。

いつか君が言ってくれた、「バレない嘘は嘘じゃない」って言葉は、
結局君自身が嘘つきだって宣言したようなもので。

でも、嘘を吐くのをやめたら、人間生きていけたものじゃない。
誰だって上手く泳ぐために必死なんだから。

だから僕にはわからない。見えない。
君が今、どこにいるのか。




翌日。
何回同じ下りを繰り返したかなーなんてぼんやり頭の隅で考えながら、
僕は病室のドアを開ける。
やっぱり虎崎さんは居なかった。

昨日も結局、あのまま乾が寝付いてくれるまで一緒に居たけど
虎崎さんはその日の夜に電話をかけてきただけで実際には会っていない。
別に会わなくても良いんだけど—— 一応、乾のお見舞いっていう建前があるから会っておきたかったのだ。
会ってどうするんだ、とか言う自分が居るけど無視する。
どうせ、僕ごときにはどうしようも出来ないんだ。
思考停止。
でも事実だ。僕には何の知識も無い。傍に居てあげることしか出来ないんだから。


「おはよう、乾」

とりあえず、朝を迎えたばかりであろう相手には朝に送るべき言葉を向けた。
11時なんてお昼近いけど、おはようございますは業界用語だって言うし。
僕にとってもこれは業界用語だ。
そういうことにしておこう。

「……はよ、由貴」

昨日さんざ泣くじゃくった人間が口にした言葉とは到底思えなくて、
僕はしばし固まった。
乾の目の焦点がちゃんと合ってる。僕を見ている。
〝いつも通り〟の冷めた瞳。つまらなそうな無表情。

包帯と病院着だけがやけに浮いて見えて、僕は声帯を取り除かれたようにただ言葉を失う。

——戻ってきた?本当に?

「…………乾?」

けれど、僕が呆けたままもう一度名前を口にした途端、ふいとそっぽを向いてしまう。
窓の外は、あの日——最初に乾の病室を訪れた日と同じ、曇り空。
雪。
はらはらと、大きな白い花びらが次から次に落ちてくる。
止めどなく降り続け、いつの間にか二センチほど積もっていた。

自転車で帰れるかな、なんて沈黙に耐えきれずに脳内で自問した。
ちょっと厳しいかも。
うん。滑ると危ないよね。そうだよね。考えればわかるよ。くそ。どうすれば良いんだよ。

と。

「——ねえ、由貴」

今度こそ、不意を突いて。

「え?」
「なんで」

————なんで私、退院できないのかな。


僕には返す言葉が見当たらない。
どうしていいかもわからない。
逃げ出してもいいなら即刻自転車にまたがって
白い息をもうもうと吐き出しながら全身を震わせて雪道を疾走したい。
頭を冷やしたい。
必要なのは対話力?とーくてくにっく?
同じ意味か。どうでもいいよ。
おもむろに出任せを口にする。思ったよりスムーズに、

「……まだ、検査が終わらないんじゃないの?そのうち、退院できるよ。きっと」

嘘は吐き出された。
どうしようもない嘘だ。
虚構だ。
偽善だ。

ろくでもない。

「〝きっと〟って、いつ?」
「近いうちに」
「……そ」

決定的だ。
乾はこの病院と言う名の箱庭から出る事さえ許されないのに、
僕は真実を告げる事ができないでいる。
単に弱いだけなのか。逃げてるだけなのか。
どちらにしろ僕にとって、愉快な事じゃないことだけは確か。

胸が締め付けられるようにざわつく。

「ねえ、由貴」
「なに?」
「明日も、来てくれる?」
「うん」
「明後日も?」
「うん」
「傍に居てくれる?」
「うん」
「じゃあ来てよ」

そっぽを向いたままの乾が不機嫌そうに言い放つ。
これは拳の1つ来るかもしれないなんて柄にもなく思いながら、
しぶしぶ姫君の仰せに従う。

振り向きざま僕を絡めとるように抱きしめた乾が顔が近い。


くっついた。




*****

一日inしなかっただけでとんだ浦島気分です……


さて二つ目の区切りに。
わたしはなにもしりません。
なにも。


——それではここまでお付き合いくださった画面の向こうのあなたに、精一杯の感謝を。

― 糾蝶 ―





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