Nicotto Town


小説日記。


神殺しの神<幕前>




「お久しぶり、哀音」

 彼女の神社を訪れるのは数百年ぶりだった。
 あの頃から何も変わっていない、
 この子の姿も、私も、神社も。
 一つだけ変わったのは――、

「妖糾さん!」

 ぱたぱたと駆け寄ってくる小さな影。
 宵の口の暗がりから、声に気づいて出てきた少女は、その瞳に何の疑問も抱かずにやってくる。
 ――馬鹿な子。
 私の噂は聞いているでしょうに。
 信じるなんてくだらないわ。打ち解けるのは大変なのに、砕けちゃうのは一瞬なんだもの。

「どうかしたんですか?」

 この子は本当に明るくなった。
 母親がまだ生きていた頃、いつもお社に閉じこもって暗い顔をしていた少女は居なくなった。
 これで他人とももっと進んで仲良く喋れたら、私も心配するようなことは無かったのだけれど――まぁ、それも今日で終わりね。
 文字通り――――

「あの、最近、妖糾さんのこと、見てないから……」

 ……そう、悲音から、ずっと頼まれていた。
 私が死んだら、哀音をよろしくね、なんて。
 貴女、結局母親らしいことなんて何一つしてやらないで死んじゃって。
 私が、約束を守るなんて本当に思っていたのなら、それは大間違いだ。
 私はいつだって裏切るために、この子の親代わりになってきた。
 優しさは、いつしか本当の私のように振る舞いだしたけれど――そんな鬱陶しい感情とも、ようやく。
 ようやく、離れられる。

「哀音」
「は、はいっ?!」

 私が歩み寄ると、愛音は戸惑いの視線を向けてきた。
 別れは苦じゃないの。
 もう十分悲しんだもの。
 別に、×すなんて大したことじゃないしね。
 今更――――気にすることでも、ない。

「……死ぬのは怖くないわ。一瞬よ。……〝妹たち〟に逢ったら、よろしくね」
「……え?」

 次の瞬間ぶわりと燃え上がった紅蓮の炎が右手に、刀となって顕れる。
 散った火の粉が真紅に変わり、哀音の瞳に初めて、恐怖の感情が生まれた。
 瞳を横切る数え切れない程の感情は小魚のよう。
 ……そう。それで良い。
 怖がればいい。畏れればいい。そして恨めばいい。
 私のこと、最期によく覚えておきなさい。
 冥土の土産……神殺しの大罪を犯した私が、決してあなたたちの仲間なんかじゃなかったってことを。
 ――信じるのは難しいのに、砕けちゃうのは、すぐなんだから。

「……なんで」
「……」
「なんで、泣い゛――っ……ぁ゛う……う、っぐ……ごぷぅ、ぇぐっ……」

 ずぶりと哀音の胸に沈んだ真紅の刃が、心臓を貫く。
 背中から突き出た切っ先が跳ね上がった鼓動に合わせて僅かに震えるのが見て取れた。
 炎に灼かれた傷口から溢れた血が蒸発して湯気を立てる。
 異様な声と共に、喉から鮮血が吐き出された。
 刀を通して伝わる鼓動が徐々に弱くなっていく。
 その隙間に漏れる苦しげな浅い呼吸が止まってしまわぬうちに、ずるりと刀を引き抜く。
 痛覚は既に、炎の熱さによって絶たれているはずだ。

「……よぅ……ぎ……ざ……っま、」
「……泣いてなんかないわ」

 振り絞るように紡がれる言葉。
 苦しいだけなはずなのに、どうしてそこまでして伝えようとするのか、私にはわからない。

「あ……り…………っが、と――――」

 がくん、と哀音の華奢な身体から力が抜ける。
 一緒に崩れ落ちながら抱きしめた、小さな命の灯火が消える瞬間をどこか遠くから見ている自分が居た。

「……喋らないで」

私は、そんな言葉聞きたくない。

「目を閉じて」

 それで終わり。
 哀音は虚ろに濁った瞳を閉じた。
 いっぱいに溜まった涙が零れ頬を伝落ちる。
 それを指で掬って、舌先で嘗めた。
 癒しの力を持つその涙は、少しだけ甘く感じた。

「……、んっ」

 すると、哀音の冷たい手が頬に伸ばされ、どこにそんな力が残っていたのか強引に唇を奪われる。
 途端に口内に広がる鉄臭さ。
 口移しで、まだ温かい血が注がれるのがわかった。
 一瞬吐き気さえ催したが、直後、哀音の口内に残っていた血液から流入した膨大な妖力に呆気に取られた。
 喉へと滑り落ちていく妖力は全身へと広がり、抑えていた自らの力さえ溢れ出しそうになる。

 ――猫鬼の血。

 呑んだ者は不老になれると云われ、神の力を持つ者がそれを口にすれば、命を奪った者からその力を〝全て奪うことができる〟ようになると云われてきた。
 ……馬鹿な子。
 最後の最期まで私に手を貸そうだなんて。

 でも、それが貴女の意思ならば――私は、遠慮なくその力を貰う。
 使わせてもらう。

 やがて今度こそ息絶えた哀音の冷たい手は虚しく自らの血だまりへと音を立てて落ち、軽いと思っていた身体は少しだけ重く感じられた。
 静かに哀音の身体を寝かせ、指通りのいい髪を梳いて整える。
 さあ、早くここを離れなければ。

「……翳籠」

 立ち上がると同時、低い声で三女を呼びつける。
 音もなく現れた水色の炎を纏う彼女は妖糾に跪いた。

「生きたいと願うことは、愚かなことかしら」

「いいえ。しかし、例えそれが間違っていたとしても――僕は、最後まで貴女だけの妹です」





*****


レズじゃないよ()

※猫鬼の血の設定はただの創作でありんす

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2013/12/18 22:38
>流ちゃん

いやぁそれほどでも……(ゲス顔)
ガハハハこちらこそだ!!←

(´;ω;`)>待っててね
泣かせちまったよ。げへry


まあ、なんだ、アレだね……今回は珍しく(?)王道展開用意してたりしてなかったりw
本当よろしくお願いします。ウィッス。
アバター
2013/12/18 22:34
>藤月

哀音ちゃんはね……うん……()
妖糾がお母さん代わりになってあげてたから、
余計に妖糾が裏切るって知っても力を貸したくなったっておっと口が滑っ(自重)

あざっす!
久々に小説書いたから劣化しててね……
ヤメテwwww私レズ作家じゃないwwwwwwwwww


あざーす!(二回目)
あ、ちょっと結末変えた♡←
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2013/12/18 22:01
哀音っぇえええええい!
おいこら糾!!妖怪の方の糾ちゃん泣いてたぞ何晒すんじゃこらァ!! ごちそうさまです!!(
妖怪の街のトピでも糾ちゃん泣いてたね(´・ω・`)
助けてあげたい、ってか、涙拭いてあげたいです。

きっと、泣くほどの何かの理由があるのだとおもいつつ参加させていただいています
アバター
2013/12/18 00:01
…号泣。
なんか、もう哀音は最後まで健気だったっていうか。
糾の事をそこまでちゃんと思ってたんだなって思った。
所々に入る糾の心情も辛かったけど。

うん、本当に良い。
そして、定番のレズ具合な←
ごめん嘘ですすみません。

でも、イベントまぢで楽しみ。
結末知ってる私hshshshsしてる(待

あー、心臓がぐるぢいー



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