Nicotto Town


小説日記。


【短編】




# - おやすみ世界、目を開けて




 あのとき私が目を開けたのは、本当はあってはならないことだと、気付いていたのです。







 極寒の炎に呑まれ、視界が暗転する。
 失敗した。そう思った刹那脳は痺れ、身体は凍える。
 上げた悲鳴すら絶望の中に掻き消え、意識と魂は永劫に葬り去られた。

 ――ああ、死ぬんだ。

 漠然と感じた恐怖に感覚は溶け、脳裏に蘇った友人たちとの記憶が、やけに眩く輝いていた。
 ごめん、死んじゃった。
 せめて一言告げることが出来たなら。
 なら私はここに目を覚まして、彼女の顔を見たときに、もっと気の利いた台詞を言えたかもしれないのに。

 寒かった。たとえようもなく。
 青い炎の揺れるゴブレットの中で、鼓動を刻む暖かな光りが、失ったはずの魂なのだと気付いた瞬間、上げかけた悲鳴に喉を引き攣らせる。
 もしもこれを失えば、またあのおぞましいほどの恐怖を感じる羽目になる。

 お優しい彼女は答えを見つけているのにその決断が出来ずにいる。

 言いたいのは山々だった。でも、告げてはならないのだと分かっていた。
 だって死んだ私に出来るのは、ただただ死んだという事実に怯えることだけ。

 あのナイフが心臓を抉ったら、いったいどれほど痛いのだろう。
 想像するだけで吐き気が込み上げ、目頭を熱する。
 彼女は私を殺すわけじゃない。
 迎えに来てくれた、王子さまなのだと言い聞かせた。

 銀のナイフは透き通るほどに煌き、白い部屋の中で冴えざえと輝いている。
 最期の問答と彼女の涙。
 私は、上手く笑えていただろうか。

 ――ごめんね、こんな役をやらせて

 振りかざされたナイフが光った。
 深く、強く、突き刺さった鋭利な銀が偽りの生命と殻を壊す。
 温かい炎が全身を包んだ。
 凍えるような寒さは終わり、気付けば彼女の腕の中に居た。

 もしも今度、死んでしまったなら。
 今度こそ女神様は私を見捨てるだろう。

 失敗の爪痕を消えない傷は身体に刻んだ。
 包帯だらけの痩身に、じくじくと滲む赤黒い液体。

 もう二度と失敗は許されない。
 私はまだ、ここにいたい。




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