【幻想断片】悪鬼ルパーダ
- カテゴリ:小説/詩
- 2014/08/31 04:28:54
「そのお前の、兎のような心臓をおよこし」
そこは、濃密にたち籠めた香に幾重にも覆われた霊廟。
弱々しくも、啜り泣く声。
その絶望の匂いに惹かれ、私は降り立った。
闇の、冷えきった滴りから産まれた。
私は悪鬼・ルパーダ。
夜を狩るもの。
それは、深淵なる絶望。
これほど心の弱き者が刻めるはずもない。
だが、確かに有る。
その絶望を掴み上げ、私は繁々と眺めた。
舐めてみる。
ああ、良い味がする。
気に入った。
「ロワよ」
私は問い懸ける。
「父王亡き今、お前の心は千々に乱れている。
この砂漠の、一粒の宝石ロシャーン国は、今やお前の肩に重く伸し掛かる。
お前は今、この国に押し潰されようとしている」
答えなぞはいらない。絶望は、私に全てを語る。
「お前はこの国の王子として生まれたが、なにも持つことはできなかった。
父王のような武勇。
父王の布いた外交術。
いや、もしかしたら、時の神がそれらをお前に恵むことはあるかもしれない。
しかしお前には今、時はない。
今持たぬということは、永劫に持てぬと同じこと」
砂漠の、一粒の国。小さなロシャーン。
老獪な王の死は、そのまま、この国の死となるであろう。
その、絶望。
有り得ぬ希望。
ただ啜り泣くだけの脆弱な若者、ロワ王子。
彼の王ゆえにこの国は生き、この王子ゆえに国は滅ぶ。
この砂の海に数多に繰り返されたうちの、ほんの一粒。
それが今、この国。この今。
混じり気無しの絶望は、良い味がした。
だが、それで終わりだ。
私は踵を返した。
その足を、王子が掴んだ。
闇でできた私の足を。
ほお。
闇と絶望は、相性が良い。
それゆえに今、王子には私の声が聞こえ、姿が見え、掴むことができるのか。
面白いではないか。
私は王子に向き直る。
王宮しか知らぬ生白い肌。
涙にふやけた目。
大きく開いたこともない口。
きれいな土台に整然と並べられたような顔。
絶望しか吐き出せぬ王子。
だが・・・。
守らせてくれと、声にならない口元が動く。
ごくりと唾を飲み込み、私を見つめる。
その瞳に、強さはない。
絶望しかない。しかし、意思はあった。
「国を守る」という意思、それだけは。
ロワ王子が唯一、持ち得たもの。
私は笑っていた。
その意思はまるでスカスカ、風の精霊が気楽に通り過ぎられるくらいのもの。
気概もない、知略も剣技も、人から乞われることすら何もない。
この霊廟の外、王宮、いや国の全てに期待を抱かせぬ、ほんのちっぽけな人間。
なのに、自分が唯一持てるもののため、この私の足を捕まえている。
私は、笑って言った。
「およこし」と。
指を伸ばし、ロワ王子の胸に触れる。
「そのお前の、兎のような心臓をおよこし」
斯くして、その身から心臓を失ったロワ王子は即位した。
脈打たぬ体は恐れに震えることもなく、心臓無きゆえに火にも毒にも、刃に死ぬこともない。
恐れを持たぬ者は、よく戦う。
戦に突き進むことで、シャーロワは見事、国を守り、広げ、栄えさせた。
いまや、なみなみとした大湖のごとく溢れる富の国、ロシャーン。
ロシャーンの王は、恐怖の王。
恐れを知らぬ故、恐れられるようになった者。
~ニコッとアバターでつくる絵本~
http://www.nicotto.jp/user/circle/index?c_id=244198
この文最高です!(^O^)
素晴らしい作品をありがとう^^
りおんもうかけないよーーおww
かっこいい~~
心臓どうなるのだー!
トリハダ立った:(;゙゚'ω゚'):
ウサミザード姫を妃にする前のお話ですにゃ
みなさんのお話を
時系列に並べたら すごい読み応えある絵本ができそうですねー( ̄。 ̄)
恐怖の王といわれてる王にこんなストーリーがあったんですね@@
涙がでて、止まりません。
きっと感動しているんだと思います。
ルパーダさま カッコいい!!(≧▽≦)
そして 実はお優しい気がする…w
どうやって 心臓は取り返されるのか… ドキドキします☆
私はなんて幸せ者
こんな素敵な創作に出会えるなんて~!
朝から
「なんじゃこりゃー@@;」の勢いでドキドキが止まりません・・・
ご馳走様です
ああ、心臓はどうなったのでしょうか
そもそも「兎のような」って表現がカッコよすぎます~!
ルパーダの踵の高い靴でふみふみされてるよーな描写ですね!
鞭も持たせて立派なS女王様に仕立てて欲しいです。
魔女は取り返す方に入れ知恵しなきゃ…
どうやって攻略したらいいんだろ~><
キムチでも食べさせるかな…
心臓を取り戻す、話の続きを書かなきゃならないんだよー。
いやもちろん、相談・密談・悪巧みには乗るよー♪
一応迷ったんだが、直せるからシャーロワにしたんだ。
うんうん、いま直す。
シャーロワ→キングロワって感じなのね
ロワ王子にしてやってくれないかw
やたら上質な娯楽をありがとう