Nicotto Town



幻想断片:石物語 <フーメ編>「アクアマリン」


長考に浸っていた私はおそらく、何度かのノックを聞き逃していたのであろう。
我に返り「どなたですか?」問うと、
「フォルテです。あの……」と、遠慮がちな声が返ってきた。
「ああ、しばらくお待ちいただけますか」
慌てて、私は窓を全開にした。
部屋に溜まっていた煙は、押し寄せる外の空気に薄められていく。
残る煙を素早く手に納め、それをポケットに押し込めてから、私はドアへ向かった。

「失礼、フォルテ嬢。御用でしょうか?」
「ええ、マダムがお茶を……」
と、言いかけた彼女は、いきなり部屋へ走り込んだ。
「大変!」
振り向くとフォルテ嬢は、風で舞い上がった紙を追いかけているのであった。
紙だけを目で追っているものだから、すぐにソファに足をとられて躓く。
「おおっと」
なんとか、倒れる前に彼女の体を捕まえられた。


彼女は、エギュ・マリーヌ・フォルテ。
フランス語で「強靭なアクアマリン」という名を持ってはいるのだが、
その姿は、アクアマリンの繊細な色のように、淡くはかなげである。

そして私は、クアルツォ・フーメ。
イタリア語の「煙水晶」が現すまま。
我々は宝石。
人の姿をした宝石である。


はにかんで紅くなるかと思いきや、
彼女は、礼もそこそこにまた、部屋の中の紙を追い回す。
さっきよりはゆっくりと、回りを見ながらではあるが。
笑いながら、私は窓を閉めた。そして、紙を拾い始める。
あらかた集め終えた彼女は、ノンブルに気がついたようだ。
整えながらナンバーを確認してくれている。
「あら、やっぱり21が」
「ないかね? ソファの下かな?」
すかさず屈み込もうとしたフォルテ嬢を押し止め、私はソファを傾けた。
「あったわ!」

弾むような声をあげ、彼女は最後の紙を拾ってくれた。


「これは何かの資料ですか?」
「そう。色についての文献を送ってもらったんだ」
「色、ですか?」
「うん、我々が “元” となった、色の名前は多いからね」
【エメラルド・グリーン】などは、その筆頭といえるだろう。
聞いただけで、どんなグリーンなのかが鮮明に伝わる。
「君についての記述もあったよ。このあたりかな」
軽く目を通した時の記憶を頼りに、デスクの上で書類をめくる。
「アクアマリンは水色のベリル(緑柱石)だが、
 色名のアクアマリンは水色ではなく、水色がかった緑色のことを指すらしい。
 不思議だね」
「あら、不思議じゃありませんわ」
少女のように若々しいフォルテ嬢の瞳が、遠い昔を憶うような深みを秘める。
「私、船で海を渡ったこともありますのよ。
 海の色は、青のような、緑のような……そんな色をしてますものね」

ああ、そうなのか。
私は、目を閉じる。
私も、海を渡ったことはあった。私の持ち主と共に。
だが彼は、私をあまり陽の元へは晒さなかった。
日光により私の色が抜けることもあると知ってからは、
私が居る胸元のタイピンを下方に押し込むことが多くなった。
だが私は、彼と共に “世界” を感じていた。

彼は……私の持ち主は、海を渡った時、いったい何を見ていたのだろう?
フォルテ嬢の持ち主のように、水面の色を心に留めることはあったのだろうか?
私のなかには、彼女が言うような海の色の記憶はないようだ。

「識るということは……」と、私が言葉を繋げようとした時、
ソプラノの高音、ステップを踏むように楽しげな「椿姫のアリア」が聞こえてきた。
近づくにつれ、本当にステップな靴音までが伝わってくる。
「ロッソ姉様だわ。あ!」
フォルテ嬢は、私を見上げて困った顔をする。
「私、お茶の時間にフーメさんをお呼びするために来たんでしたわ」
「フォールテ! 油売ってないでお茶いれる時間だよ!! もー過ぎちゃってるけどねー」


威勢よく飛び込んで来たロッソについては、またの機会にお話ししようと思う。
今は、お茶の時間だ。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 

幻想断片 石物語
 ~ニコッとアバターでつくる絵本~
http://www.nicotto.jp/user/circle/articledetail?a_id=2301490&c_id=244198

◆概要◆
宝石泥棒に盗まれて不思議な館につれてこられた宝石が自分の運命を決める、
というストーリーです。

※このフォーマットは、moda@フォルテ嬢のものをお借りしました(事後承諾☆

アバター
2014/12/07 11:25
こんにちは。
サークルからお邪魔致しました。

先日から何度か拙ブログにコメントを頂いていたのに、
こちらを訪問するのが遅れてしまい、大変すみませんでしたm(_ _)m
しかし本日Palさんの文章を拝見して、至福の時間を味わわせて頂きました。
ありがとうございました^^

それにしても世界観がしっかりしておられますねえ…
それに比べて我が文章の支離滅裂な事^^;
反省しきりです。

続編もこれから拝見させて頂きますね。
うきうき♪
アバター
2014/11/29 12:00
そうなんですか^。^ ↓ww 了解です❤

それにつけてもフォルテさんのラブリーさにはノックアウトですね~
Palさんがラブコールだったのでアクアマリン3姉妹からこちらにハシゴですww
いやはや わたくしもあの愛くるしさにはやられましわい!!

Palさんはデカそうな水晶ですね~
魅力を秘めた。。。宇宙の神秘を語りそうな石ですね❤
アバター
2014/11/27 00:20
>季節労働者@@ 何のお仕事すか??

いや、通年同じ仕事をしてるけど、
今の時期は特別忙しくなるんで、なんとなく・・・。
そして、公表すると支障をきたす恐れがあるので
ナイショ☆ですww


>Palさんもアクアマリン、煙水晶なのですねぇ(≧∀≦)キャ❤❤❤

いや、残念ながらスモーキークオーツだけですww


なんか、やたらティータイムのシーンばかり書きそうな予感があるんだけど・・・。
アバター
2014/11/26 23:39
明日またゆっくり拝見に伺いますね~(´艸`*)❤
今日はもう寝ます
季節労働者@@ 何のお仕事すか?? おつかれさま~~
アバター
2014/11/26 01:24
初めて訪問致します。

昼下がりのティータイムの優雅な語らいが、目に浮かぶよう・・。

鉱物の色に関して、様々な蘊蓄が聞けそうですわ。
アバター
2014/11/25 21:13
ほふ(〃▽〃)♡
Palさんもアクアマリン、煙水晶なのですねぇ(≧∀≦)キャ❤❤❤

イタリアの海を渡ってきた水晶は深みを帯びた輝きをお持ちなのだと、
見聞を広めたい石のようにお見受けしましたです(//∇//)
フォルテさんとのティータイム、続きを楽しみにしておりますね^^
アバター
2014/11/24 06:47
なんとダンディーな (´∀`*)❤
学者さんの宝石は やはり考えたり調べたりがお好きなのですね☆
館の中での こういう交流を読むと ほっこりします(≧▽≦)
続き 楽しみです~♪
アバター
2014/11/23 22:56
皆様、お読みいただき光栄に思います(ぺこり。

続きは、運が良ければ来週に(笑。
皆様はあと1日、楽しい休日をお過ごしください。
私は明日から仕事です@冬なんか嫌いだよ忙しくて★

私は季節肉体労働者〜♪
アバター
2014/11/23 11:08
Pam様

はい。
来年こそは、ドジっ子を卒業できるように頑張ります。(*´▽`*)ノ
(なぜ、今日から努力しないのだろう...)
アバター
2014/11/23 11:05
わー、登場させていただき、ありがとうございます(*´▽`*)ノ
とっても嬉しいです。フーメさん、紳士で素敵です。
しかし、なんか、リアル私の私生活をばっちりリサーチしての記述のように感じるのはなぜでしょうw

どうして、まず一番に、窓を閉めるってことを思いつかないかな、私。
リアルでも、ぜったいこうしてると思います^^;
...で、ひどい怪我してると思います...以下省略

ロッソ姉様、目に浮かびますw
アバター
2014/11/23 10:27
パルさんのお話きたー!

もー
今日は朝からみんなしてカッコいい話ばっかり(ノ´∀`*)
もうご馳走が並びすぎて目が廻るー!

でも幸せ(〃´ x ` 〃)ポッ
アバター
2014/11/23 09:54
石にも様々な物語ありですな。読みやすくて楽しかったなり☆
私は黒曜石や琥珀、アクアオーラ等が好きですわん。
アバター
2014/11/23 06:40
色彩豊かで頭のなかに色が浮かびましたー
アバター
2014/11/23 06:27
ブラーヴォ!(嬉々として読んだ
アバター
2014/11/23 05:53
フォルテさん、ドジっ子ですのね?



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