夢掌編イベント【ソムニア】第八話 鳳仙花
- カテゴリ:自作小説
- 2016/09/25 18:46:33
これが夢なのはわかっている。
・
◆
・
・
・
劇場にあるまじき酷い反響。
極上の音楽が、悲惨に歪められていく。
反響板と化した身がバラバラになりそうだ。
フーメは、耳を、頭を庇うように腕を上げる。
て知らなかった………自由でいるし
いのよ
愛し愛され
不思かな腐った宴の中でも
私はるなん
議だわ……巫山戯
切り刻まれたメロディに潜む歌姫の声もズタズタだった。
逃れるように振った腕が、急に輝く。
目が眩む光は、腕に巻き付いてきた黄金の蛇、ではない。
蛇の鎌首のその先、恐らく舞台の中央に、黄金のたてがみが見えた。
たてがみのような髪で立つ姿が。
遮るように飛び立つ譜面。いっそう厳かに響き渡る雑音。
雑音と化すほどに澄み渡るような歌姫の声。
歌姫よ、あの「殺しても死にそうもない」溢れる生命力はどこへ行った!
病み萎れ逝く椿姫にあるまじきアリアは!
たてがみの男の黒いタキシードの肩に、白いものが見える。
白い骨。
指、いや、手の骨。
歪み重なる音楽に合わせ、たてがみの男は優雅に踊る。
まず顔をこちらに向け・・・黄金の仮面だ。
だが、酷薄に上げられた口角から、表情が読み取れる。
目がこちらを向く。そして体も。
男が抱いている白骨の貴婦人も。
腰に連なる褐色のタフタ。
お気に入りの花の帽子はどこに落としてきたんだい?
ペティ
・
・
・
・
◆
・
・
「まるで花の種みたいだね」
私にそれを渡しながら、ロッソは言った。
黒くて小さな、まるで黒胡椒の粒のような結晶を一つ。
「ああ、そうだね」
受け取った私は、記憶を探る。
「鳳仙花の種? みたいかな?」
「ホウセンカ?」
「知らないかい? 実が熟すと、突いただけで種が飛んでいく・・・」
「ああ弾ける種! 知ってる。神話があるやつでしょ。
〝私は無実、私は無実〟って花になった」
窃盗を疑われた女神が、無実を訴えながら花になる。
ギリシャ神話の悲しい物語である。
「あははーホントに似てるねー。でも、これは咲かないね」
私の手から黒い結晶を取り返し、ロッソは眺める。
「・・・咲けばいいのに。綺麗な花に」
ロッソの笑顔が陰る。
強い光は、濃い闇を作る。
これは、とある同胞の「陰」を吸った結晶だった。
彼女の「陰」はあまりに深いので。私はロッソにお願いして、
こっそりと、彼女の部屋に結晶を隠しておいてもらったのだ。
なぜ隠したのかって?
彼女は、自身の心の「陰」に気づいてはいない・あるいは気づこうとしない。
「今」が、とても楽しすぎるために。
咲けばいいのに。
オペラ歌手の魂を模したレッドスピネル・ペティロッソがそう、声を上げたからなのか。
私は感じた。
この黒い結晶は今、「咲きたい」と思っていると。
できるかもしれない。
「ロッソ、地下劇場へ行こうか」
「え? なに? もうじきお茶の時間だよ」
「だから手早く済まそう」
ロッソの手と「種」を握り、私は地下劇場へ急いだ。
「なにすんの?」
「咲かせてみよう。それを種にするんだ」
「花の種!?」
「そう、君が歌って願えば、あるいは」
そう言って振り向くと、ロッソは・・・力の抜けたへにゃっとした顔で笑ったのだ。
「やるよ!」
「鳳仙花の歌はダメだね、悲しいし」
「花の歌で得意なのは?」
「『野ばら』はやだなあ、好きだけど歌詞が合わない」
「君が歌えばどんな歌でも『乾杯の歌』だ」
ロッソは思いっきり私の足を踏んで、口を尖らす。
「・・・新しい歌だけどね。『The Rose』なんかどうかな」
「愛は川で刃だって、あの歌?」
「雪の中の種は春のバラ、あの歌」
「綺麗な花が咲きそう」
私は煙水晶。心の澱みを吸い取り安定させる石。
そう信じる人々の祈りが私に与えられたのか。
私の掌に乗せられたロッソの手、間に陰の結晶を置く。
そして、ロッソは歌った。
愛は花 花は咲く………冬の終わりに
私は、忘れていたのかもしれない。
強い光に照らされた闇は、それ以上に深いものだと・・・・・・
◆
黄金・・・
黄金の林檎を盗んだ女神は、罪を着せられた鳳仙花を見てなにを思ったのだろう・・・
◆
「騙されないぞ!!」
フーメは黄金の光を遮るようにしながら叫ぶ。
「それはロッソなんかじゃない! ロッソは・・・」
「ダメ!! フーメ!」
言い終わる前に、いや、その先を言わせまいとする意思の力で、金のボールが飛んできた。
金のボールは、少女とも猫ともつかない形をとりながら、フーメに帽子をかぶせる。
涼しい草原の中に座っていると、唄が聞こえてくる。
まるで優しく話しかけているような・・・
正面には、ナーナがいた。
・
・
・
青いカルセドニーのような草原。
爽やかな風に吹かれ、フーメは少し体を伸ばしながら眺めている。
目の前の会話を。
「おまえのような男はナーナに近づくな。」
「彼は良いのかい?」
「フーメはいいんだ。」
「どうして。」
「私もウサギだからじゃないか?」
目前で言い合いをしていた青年たちが、一斉にフーメを向く。
「・・・そうだな。」
「そうだろ。」
それはよかったね、意見の一致を見て。
フーメは、帽子に着いた長い耳を伸ばしてみる。
これは、誰の夢だろう?
私かな? ナーナかな? ルチルかもな。
いや、私ではないだろう。ナーナの唄に誘われた、誰かの夢らしい。
「わたしかもー」
フーメの心を読むように、帽子の下からニョロリとシャトンが現れる。
金色の子猫の首輪は、今日は青いリボンだ。
「君ではないよ。君は潜り込む常習犯だし」
「そうよシャトンは、どこにでも入れるのよ」
青いリボンが解け、広がっていく。
「でもシャトン、フーメの夢なのねー」
リボンの向こうにナーナの歌声。
草原はいつしか、虫たちのオーケストラ。
空に大きな白い月。
そして、この私の下の膝は、誰のもの?
「冬の・・・バラ・・・」
夢に眠るフーメは、そう呟いた。
ウサギ帽子をかぶったままで。
・
・
◆
◇カルセドニア・アスール・デ・ナーナ(子守歌の青玉髄)… 風月さん
前作《第七夜 獣の国》
七リィさん
◆
次作《第九夜 うつろい》
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1293211&aid=62843564
風月さん
次作《第九夜 時の魔法》←10/19 new
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=48178&aid=62987721
- ☤ネコ衛門☤
以下、一番下に
このイベントの詳細を収納。
(文字数限界になりましたm(_ _)m)
遅くなりましたが、ようやくアップしました。
ご報告が遅くなり、申し訳ありません。
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=223550&aid=63038152
さらりと読んでしまいましたが、フーメとロッソのやりとりが
テンポがあって引き込まれてしましました^^
またゆっくり読み返しに伺わせてもらいますね♪
第十二夜を更新しました
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=446840&aid=63067772
また11月から忙しくなるためバトンの依頼をいただく際には一週間に一度、週末にお返事します
こちらに伝言板を作りましたので書き込んでおいてくださいね^^
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=446840&aid=63062416
大変ながらくお待たせいたしました<m(__)m>
続きはこちら!
第九夜 時の魔法
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=48178&aid=62987721
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そんなふーめはうさちゃんというよりねこちゃんでしょうね〜
全身から吹き出した見えないほど細い触覚があるんじゃあかしらん
もう一回読みにきたけど
ホント深いお話だねぇ。。。(ღ-ˇ_ˇ-)ウーン
フーメさんは、プロフェッサー・フーメですのね ドクター、ではありませんわね
なんというか、生臭さのない大人の男性・・・ で、OK? ヾ(-_-;)マテマテマテマテ
ソムニアイベント、イアルス殿に投げさせて頂きました。
事後承諾で申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願いします。
pal 様の夢世界は色彩に富んでいます~。
展開されるは、ダリの絵画のような、不条理と色彩に富んだ劇。
夢の中で影が摘出され、これから昇華していくのでしょうか?
高みの見物で申し訳ないww
またゆっくり読みに伺いますね❤︎
お待たせしました 次回作ができました。
続きはこちら!
第九夜 うつろい
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1293211&aid=62843564
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「愛」だよね
想う気持ちって何でもそう
悲しい気持ちも
嬉しい気持ちも
全部
その一言
本当にノーコンなのだよww
ドッチボールでは、逃げ回って最後に残ってもどーすることもできない
一番やっかいなひとでした( ´ ▽ ` )ノ
この夢はまさに そんな感じ。
ゆっくり整理して 落ち着ける場所に記憶が落ち着くといいな☆
にょろりというシャトンの動きの描写に笑ったw
猫さん飼ってるからこそ出る表現だなぁ 本当にそんな感じの動きするよね( *´艸`)
猫のしなやかな動きを見てると 野生の力強さを感じるんだよ♪
フーメとイアルスのページを 外部ブログに追加しました!
http://cherspierres.blogspot.com/
遅くなっちゃってごめんね~><
アタチ出てませんがな( ´∀`)Σ⊂(゚Д゚ ) なんでやねん!
泥の中にも蓮は咲くのだよ、同胞。
あなたとはコミュニケーションのそりがあまりにも合わなくてもうある程度諦めたけれどw
敬意と好意は変わらずある。
死と安っぽい正義を、なりふりかまわず使って自己愛に徹したあのかたちを、
わたしたちは忘れることはないだろう。
そしてどこかで高慢に寂しく愛おしんでいることだろう。
美しいレクイエムをありがとう。
これはオリジナルの歌詞を訳すところから始めないといけないなぁ。
バトンありがとう。しかと受けとりました~☆
最初、夢が場面を代えていくので
繋がったときに おお~! ってなりました。
こういうお話は書けないなぁ。凄いなぁ。
種がロッソの歌で綺麗に咲けたなら。
願いも愛も、難しいですね。
本当はもっといろいろ書きたかったんだけど、
欲張ったらダメだね、特に夢の話はww
あちこち回ったけど、結局
第1期のメンバーしか出すことができなかったので、
ナーナ@風月さん
それから・・・ネコ衛門氏・・・受けられる?
金のネコはさすがにアイテムがなかったんで、
黒猫の代用でゆるせよシャトンww
「宝石たちがみた夢」というテーマで、参加者間で続きを執筆しあっています。
~心をもつ宝石たちの軌跡をえがく物語群~
サークル幻想断片 石物語 夢掌編企画
【ソムニア】 ~夢みる石たち~ イベントページ
http://canarydream.blogspot.jp/2016/08/event-somnia_72.html
◆◆◆◆◆◆
夢掌編イベント【ソムニア】参加表明
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1104605&aid=62594832
夢掌編イベント【ソムニア】URL報告場所
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1104605&aid=62594903