Nicotto Town



花蝕〜外伝「Hidden」1

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【注意】この物語はフィクションです。
登場する人物・事柄は全てARCHMASTERです。
また、悪魔の階級、魔界の設定等、全てこの物語の中だけのものです。
ご了承ください。


   この話は、゚ღゆうなღ゚氏の魔界シリーズ「花蝕」のスピンオフとなります。
         「ゆうなさんの悪魔シリーズ 目次」 https://goo.gl/sGPglp





さざ波に似ている。
けれどそれよりも密やかな揺らぎ、ほのかな甘い匂い。
ジシュカはこの時間が好きだ。
目覚めるまでの、ほんの僅かな微睡みの時間。
この匂いはなんだろう? 知っているのにわからない・そんなような。
密やかなさざ波は、答えにたどり着く前に引き戻してしまう。
だから、ジシュカはいつまでもたどり着かない。

たどり着く前にいつも目が覚める……。



   1

「ああ……いいのよムゥ、もう起きるから」
顔を舐める使い魔に手を伸ばし、体を撫でる。
フピアフ社製猫型使い魔Mu-83b。
黒猫のボディにコウモリの羽の使い魔は、言葉に反応して契約者ジシュカのオーラへと消えた。
いつもなら起こされてすぐに仕舞うことはないのだが、今日は忙しかった。
王城の祝賀会へ向かう主の共をしなければならない。
予定では、王都での滞在は3日。だが、予定は常に覆される。
夜を徹しても帰途に着く場合もあれば、月が変わるほどの長逗留になる場合も。

ジシュカはベッドから起き上がって伸びをした。
背筋が伸びると、自然と背中の羽も伸びる。
悪魔族の大きく黒い翼とも違う、よりコウモリに近い皮膜の翼。
キャットバット族の彼女には、猫の耳、そして尻尾もある。

逗留する王都のホテルには彼女専用の部屋もあるため、荷造りというほどの持ち物もいらない。
時間を確認し、ジシュカは部屋着のまま、階段を上がった。

主に与えられたジシュカの部屋には、小さな温室が続いている。
花を主食とする彼女が、自分好みの花を自由に育てられるように。
ガラス張りの天井から注ぐ昼の月明かりは柔らかく、
温室の植物たちもまだ気怠く首をもたげていたが、
近付くジシュカの気配を感じて身を起こした。
自らを迎え入れてくれる植物たちの気配は、とても心地よい。
「昨日も言ったけど、多分数日帰れないの」
ものを言う相手に対するのと同じように、ジシュカは植物たちに声をかけた。
すると、花は咲く。
咲き乱れる。
香りはジシュカに身を寄せる。
「嬉しいけど……無理に咲いちゃダメよ」
微笑みながら、ジシュカは花を集めた。集めながら、一株一株に目を配る。
百合の一株が気にかかった。
「もらってもいい?」
そうは聞くが、これまで拒否されたことはないのだ。
スコップを手にしたその時、
 《ジシュカ、起きてるかい?》
飛び出した使い魔が、女の声で叫んだ。
「エゥリィ、もう時間?」
 《まだ大丈夫だよ。でも今朝は、花を持ってくるんだろ?》
「今ムゥに持たせるわ。百合と青薔薇がメインよ」
 《青薔薇か、いいね。お館様がお喜びになる。
  こっちには入ってこなかったんだ》
「わかった。急ぐわ」

スコップを手放し、ジシュカは温室の窓を開けた。
「急いでね」
使い魔に花の入ったカゴを渡し、飛び立たせた途端に腹が鳴る。
「あー、少し残せばよかった……」
中央のスプリンクラーをオート設定し、慌てて階段を駆け下りる。
余裕を持って起きたつもりでも、出かける朝は慌ただしい。
「おでかけだーたいへんだーいそがなきゃ~♪」
ジシュカは自作の歌を歌いながら髪を編み、支度を整える。



ジシュカの仕事は「私設秘書」。
主の私的なスケジュールを管理し、……………。ただそれだけ。
身の回りのお世話をする、ということもないわけではない。
だが、主付きのメイドはいくらでもいるし、執事だっている。
所領担当の秘書、弁護士、事業担当の者たちもいる。
その中でジシュカが主にしていることといえば、事前予約のある者たちとの取次や、医師との連絡くらいだろうか。
執事でもできそうな仕事とは思うが、その執事ブレスフラフが超多忙なのだ。
主が軍籍にあった頃には副官だったという彼は、領地の警備隊・私軍を束ねる身でもある。
実質、ジシュカがしていることは、
ブレスフラフが館内で執り行うことの補佐に近いのかもしれない。
指示を受ける立場ではないが、互いに確認を取り合うことはままある。

館の主の名は、アグレアス。
東の大公爵アグレアス。地獄創世期より連なる、古き血を継ぐ大悪魔である。
前魔王サタン41世陛下の元では魔界軍事局参謀部総管理官を務めるも、
戦闘中に足と顔に傷を負い、退役。
以後は領地を治め、事業を起こし、東方の要と敬われて久しい。
その身に持つ巨大な『大地』の魔力を注いで地を潤しているのだろう。
そう慕う領民も多いのだが、ジシュカは主に言われたことがある。
 「器に余る魔力は持てん。溢れるほどの魔力は、見えなき何かで贖われるもの」

白銀と赤のオッドアイだが、赤い方の目は怪我によるもの。
負傷以来、常に杖を携えるが、遅れをとることもなく颯爽と歩く。
顔半面ほどを隠す仮面がこちらを向き、地に吸われるように響く声。
「行くぞ、ジシュカ」
「はい、大公様」

花を咲かせるくらいの魔力しか持たない自分が、なぜ大公爵の秘書をしているのか。
常に問いかけるようにしながら、5000余りの年月をジシュカは過ごしている。





to be continued…


挿絵キャスト
ジシュカ nekoyama
アグレアス Pal


 ◆ ◇ ◆


ニコッとタウン 過激団ARCHMASTER 5〜6月イベント
花蝕×ARCHMASTER「士官学校編協賛作品

イベントの詳細は、ARCHMASTERファンクラブサークル
「ジュー・ド・プペ」 https://goo.gl/ZTMpN3 にて(誰でも閲覧可能。
団員たちがスピンオフ作品を、週末ごとにUPしていきます。

※私の「Hidden」は協賛なので士官学校編ではありません。
 週末ごとのUP・・・は、可能な限り( ´ ▽ ` :)
 ただ、今週は旅に出るので、週末のUPはありません。




アバター
2017/05/27 09:03
スピンオフ祭り最終週のためぐるっとみて回っています^^
以前からアルバムに写っていた閣下の物語が読めるなんて!
すごいことだよね
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2017/05/21 01:27
つか、サラリとレアな個人情報バラすなww
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2017/05/21 01:23
その言い方、
昔「Zガンダムを理解している」と誤解を受けたのを思い出して
ものすごーく嫌なんですけどww

それにまだアグレアスには
一言しか喋らせてないんですけどー!!
アバター
2017/05/21 01:17
かっこいいと巷でプチブレイクのアグレアス閣下!
オリジナルストーリーの展開には堂々たる風格あり
もはや花触世界〜魔界を作者をのぞいてもっとも理解している
さすがに以前友達と合作やってたって言ってただけあるぅ〜
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2017/05/20 18:11
と言ってるので、
長い目でキャットバットのジシュカちゃんをよろしくお願いしますm(_ _)m
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2017/05/18 22:48
なんかひどい言われようだぁ〜><
ちゃんとまぢめにやるもん〜
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2017/05/18 22:21
なぜ そんだけ従業員がいるというのに 一番気まぐれな猫を秘書に??
猫だけはあてにならんぞ
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2017/05/18 19:01
うううぅ、カッコいい、めちゃめちゃカッコいいです、
大公爵アグレアス閣下 (〃▽〃)
ここから先は王都での話になるんでしょうか。。。
続きが、続きが速く読みたいです!!!

が !? 20日公開は無しですか。
とりあえず旅行を満喫して、続き、お願いします (。- 人 -。)
アバター
2017/05/15 22:53
かっこいい閣下・・きっと14世魔王陛下の片腕だったのでしょうね^^
ジシュカちゃんにもなにやら秘密がありそう
やさしいジシュカちゃんに、花たちも応えたいんだね^^

楽しみです^^
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2017/05/15 22:02
わぁ~気がつきませんでした。
後でゆっくり読みに来ますね^^
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2017/05/15 17:19
貴族でも力ある貴族なんですね、アグレアス大公閣下。
私設秘書のジシュカちゃんが可愛いです~。
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2017/05/15 01:07
びっくり!不発弾?とかwwwww  お花さんとのお話、楽しいだろうなぁ!!!
アバター
2017/05/14 19:29
「嬉しいけど……無理に咲いちゃダメよ」
っていうところが
ジシュカらしいね^^

優しい場面のオープニング(´∀`*)ポッ
謎の大物は何するのか(´・∀・`)ナ-
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2017/05/14 18:32
なんか壮大な物語の始まりだ~♪
5000年……ディア様とソレイユの年齢分だなw
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2017/05/14 15:00
大公さま、採用ありがとうございます。

わぁ〜どんなお話になるのか楽しみだぁ〜(笑)



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