花蝕〜外伝「Hidden」2
- カテゴリ:自作小説
- 2017/05/31 14:28:01
【注意】この物語はフィクションです。
登場する人物・事柄は全てARCHMASTERです。
また、悪魔の階級、魔界の設定等、全てこの物語の中だけのものです。
ご了承ください。
この話は、゚ღゆうなღ゚氏の魔界シリーズ「花蝕」のスピンオフとなります。
「ゆうなさんの悪魔シリーズ 目次」 https://goo.gl/sGPglp
「マスタークリスタル、アポなしの面会ですがよろしいですか?」
副官のレダに声をかけられ、クリスタルはオッドアイを釣り上げる。
「客ぅ? このクソ忙しいのに、酒なしの奴になんか会わねぇぞ」
プライベートでなく執務室での面会では、事実上「会わない」と言ってるようなものだが。
「刑務庁長官アラストル様ですが、お断りしますか?」
重ねて確認するレダの顔もさることながら、相手の名を聞き振り返るクリスタルの顔も強張る。
「忙しいならまたの機会にとおっしゃられているのですが」
「……お通ししろ。それと、茶か」
アラストル長官を前にすると、心身に軽く緊張が走るのを、クリスタルはいつも感じる。
士官学校時代、特別講師として度々まみえていたせいかもしれない。
友ではなく師として、やんちゃな時代を知られているのだ。
しかしそれは何万年も昔の話。今ではごく親しい間柄である。
「近くに来たついでと言ってはなんだが、君にも少々話を聞けるかと思ってね」
穏やかに笑う紫の瞳を見ると、自分と同じ炎系魔力の悪魔だということを疑いたくなる。
落ち着いた威厳を絡い、前に押し出すような存在感は持たない……ちょうど自分とは真逆のような。
これが「育ちの違い」というやつなんだろうと思う。
そう、刑務庁長官アラストルは、上級官吏には今では「残り少ない」貴族である。
「含みのある言い方ですな」
「うん……、言い澱んでいても仕方がないな。
クリスタル、君は前魔王陛下の御代に、アグレアス公爵の部下だった時期があったよね」
「アグレアス……東の大公?」
眉の上がったクリスタルに、アラストルは苦笑する。
「そう、貴族の反乱が起こる度に名が上がる……上がるだけの、あのお方だよ」
2
ジシュカは、あくびを押し殺した。
ここでみっともない姿を晒すわけにはいかない。
ジシュカの醜態は、アグレアス大公の恥となる。
王宮の、今夜はなんの祝賀会だったか。主賓たちの集う華やかなホールではなく、ジシュカが待つここは「控えの間」。貴族の従者たちが主の帰りを待つ、控え室である。
王宮のパーティのたびにここで待つので、集まる顔ぶれはなんとなく同じ、見知ったものが多い。
左のソファにいる男は主の子爵より顔がよく、それが自慢で、
今夜も左右に美女を置いて、何事かを自慢げに話しているようだ。
その反対側には、侯爵家の有名な「双子の執事」。
元々一つの核として発生したものが(悪魔は産まれるのではなく、発生するのだ)、
早初期段階で二つに割れて二名として受肉したものだ。
彼らは自分たちを「一つ」として認識しているらしいのだが。
……と、興味深い個体も集まっており、観察したいところではあるが、
ジシュカはなるべく目立たず、壁際で仕事のふりでもしてやり過ごそうとしている。
なのに……
目の端に映った赤毛の女が、自分の方を指し示している。
それを受け、男がこちらへ足早に近づいてきた。
マントを着けたままの、見知らぬ男だ。
ジシュカの全身は緊張するが、なるべく男の方を見ないようにする。
それはもちろん無駄なことで、男はジシュカの前で立ち止まった。
「失礼、アグレアス大公殿の秘書、と伺ったのだが」
心の中でため息をつき、仕方なくジシュカは立ち上がった。
間違いなく、面倒な相手。
慇懃な態度からすると、大貴族に仕える下級貴族というわけではないだろう。
ため息の分だけ、ジシュカは微笑んだ。
「申し訳ございません。本日は---」
「噂は聞いている。そなたは誰のことも取り次がないとな」
なら来るな、という気持ちをおくびにも出さずに、ジシュカは微笑み続ける。
そんなジシュカをひと睨みして、男は手紙を一通差し出した。
「……お受け取りできません」
「ならばここに捨てる。困るのはそちらの方だということを忘れるな」
踵を返して立ち去る男を、ジシュカは笑顔のまま見送った。
毎度、このようなことに遭遇はするが、ここまであからさまなのは久しぶりだった。
王宮にいる間は、いかなる相手でも取り次がず、どんなものでも受け取らず。
そう指示されてはいたが、こうして手紙を投げ出されたことは一度や二度ではない。
ため息のまま床の手紙を眺めていると、顔見知りのメイドが近づいてきた。
「こちらもまた、処分いたしますか?」
そう言って手紙を拾おうとすると、音もなく近づいてきた女が素早い動きで手紙を拾う。
「たまには受け取ったらどう? メイドちゃんだってこんなの迷惑でしょ?」
キャットバット族のジシュカとは近縁のバット族の女は、押し付けるように手紙を差し出した。
「いえ、迷惑なんてことはありませんわ」
苦笑するメイドは、ジシュカとバット族の女を交互に見つめた。
「あらそうなの? 渡してもいいの?」
女も、メイドとジシュカを交互に見やる。
「ええ、渡してください」
ジシュカは揺るがなかった。あんな男の捨て台詞など、物の数ではない。
女は、含みのある顔でジシュカを見つめると、手紙をメイドへ渡した。
一礼して受け取ったメイドは、控えの間を出てゆく。情報局へと回されるのだろう。
だがその内容がいかなるものであれ、ジシュカは「受け取っていない」のだ。
アグレアス大公に火の粉が降りかかることはない……。
気付くと、バット族の女は消えていた。
訳知りのように話しかけてきたが、ジシュカは彼女に覚えがない。
嫌な予感がした。
主人の身分を笠に着たり、足の引っ張りとかもありそうだし、
きっとみんな一癖も二癖もあったりするんだろうな。
この思わせぶりな終わり方…。いったい何が。。。ドキドキ
華やかな舞台の裏で繰り広げられる思惑のやりとり。
緊張感が良い感じですね。
ジシュカは忠実に任務を果たしたんだけれど・・・なにやら危険な匂いが・・
続きが気になります^^
こういう場面だったのか( ̄。 ̄)ホーーォ。
常に警察のマークを受けている極道の親分( ´艸`)プフッ
この後彼女らと、「薔薇でも見ようか」とかって庭に出るんだろうな〜
なるほどなるほど 馬丁ご主人様のお帰りは朝だよw
っって アラストル先輩
もしや公式には依頼できないが勝手に自分の独断で調査してもいいんだよ
的な世間話すかw
常に警察のマークを受けている極道の親分が、大企業脅迫事件のたびに名前が出るけど
警察が電話をかけても平然と応対し、証拠がなくてご同行願えない。。。そんなキャラ?
アグレアス閣下かっこいい!
この手紙が情報局に届けられると……
ソレイユの仕事、情報局で情報の管理や分析してるんだけど、
この手紙みたいな物も扱ってるのかな~大変だな~~w