Nicotto Town



花蝕〜外伝「Hidden」3


【注意】この物語はフィクションです。
登場する人物・事柄は全てARCHMASTERです。
また、悪魔の階級、魔界の設定等、全てこの物語の中だけのものです。
ご了承ください。


   この話は、゚ღゆうなღ゚氏の魔界シリーズ「花蝕」のスピンオフとなります。
         「ゆうなさんの悪魔シリーズ 目次」 https://goo.gl/sGPglp



従僕から連絡を受けたジシュカは、ホール前の控え室へと移動した。
東の広い所領を賜っていることもあり、アグレアス大公は王宮の公式行事にはなる
べく出向く。しかし、長居したり別の催しに続けて出向くことはなく、多くの者よ
りも早く退出する。
住み込んでいるのかと思うほど主治医は頻繁に訪れるが、主がどこを患っているの
かをジシュカは知らない。
ジシュカが知らない方が良いことの一つなのは承知しているが、あまり思わしくな
いように見える主の顔色がいつも気がかりだ。

ジシュカの心配をよそに、大公は笑顔で退出してきた。
「待たせたかな」
「それほどでもありませんわ」
コートを着せかけ、共に歩き始める。

アグレアス大公に妻子はない。
長命な悪魔族は死に際して子を成す事もあるのだが、莫大な財を持つであろう故
に、後継者不在の理由にはある有力な噂が流れている。
魔力の核が力を失う前に器たる肉体を放棄し、子ではなく自分自身を再生して永
らえる……永久不滅を望んでいるのではないかと。
不慮の事柄にての若い悪魔の再生はままあるのだが、年を経た悪魔の再生例は、
実はあまりない。
長寿故か、好戦的な性質からか、生き飽きるからではないかとも云われるのだが。
アグレアスは、発生してじきに10万年。
同等に年を経てきた悪魔もすでに残り少ない。

魔具の蒐集家としても知られるアグレアス大公。
零落してゆく貴族達への救済であるのかもしれず、あるいは、秘術にて己の記憶
を保持したまま再生する道を模索しているのやもしれず。

仲睦まじくも節度ある距離が崩れないジシュカに、愛人説はとうに消えたが、未
来の乳母ではないかという憶測が飛び出す。
さも案じてというように、それらをわざとジシュカに告げてくる輩も多い。
だがジシュカは、主の真意を知ろうと思ったことはない。
歩調を合わせ共に歩く、それだけでいいと思っていた。



 3

ホテルの送迎車に乗り込んだ途端、アグレアスはジシュカの顔に手を伸ばして
きた。
驚き身を引きそうになるジシュカに、アグレアスは面白そうに笑う。
「土産を持たされたな」
そのまま身を乗り出して、ジシュカの猫耳の後ろを探った。
同時に、車は動き出す。
広くはない車内を黒いものが舞った。蝶ではなく、コウモリのようだ。
「バット族の者と接触したようだな」
「ええ、はい。申し訳ありません。迂闊でしたわ」
「良いよ。お前のオーラに紛れるほどの弱き物だ」
さし伸べたアグレアスの手に落下したコウモリは、黒いカードに変わる。
そのメッセージを読み終えたアグレアスが指先で飛ばすと、カードは鈍く光って
消滅した。

「このまま帰るしかなさそうだな。忙しないことよ」
「申し訳ありません。私の不注意で」
「お前がだめなら他の手を使われた。気にすることはない」
言った後、アグレアスは小さなため息をつく。
「バルドーは、今頃恋人のところだな。馬の整備を怠ってないといいが」

乗り換えるようにして帰途につく。
機械馬は、街道を走る分にはオートコントロールでも問題ないのだが。
「雨が降りそう」
星のない空を見上げ、引き返した方が良いのではと思いながら、ジシュカは主を
見る。
「じきに降るだろう」
事も無げに、外を眺めながらアグレアスは返す。
行きには御者がいた。だが帰りは、置いていくとアグレアスは言った。
それほど急ぎ帰るのは何故なのか。いつものように、政争に巻き込まれる前に退
散するだけか。
それとも、もっと具体的な理由があるのか。
何も聞かされない理由は知っている。
「お前は嘘が下手だから」と、アグレアスに言われた。
「嘘が上手な方をお選びになった方が良いのでは?」と返すと、アグレアスは笑
ったのだ。
「嘘では私を守ることはできないのだよ、ジシュカ。
 何も知らないという真実が、私やお前を守ることになる。恐らくな」

その通りだったのだ。
アグレアスの「真意」を探ろうとジシュカに近づいた中には、魔力を労して迫る
者さえいた。
しかし、ジシュカの知らぬことをジシュカから引き出すことはできない。


雨が降り始めた。
馬車の屋根に当たる雨音が、次第に大きくなる。
今どのあたりなのだろうか? 集落の明かりはとうに見えない。
王都を抜けた先の荒野、難所となる崖まではまだ距離があるかとは思う。
そこに近づいたら、馬を止めて雨が過ぎるのを待つよう進言することにした。
ベテランの御者がいないのは、なんとも心細い。

窓から車内へ顔を戻すと、アグレアスが笑ってジシュカを見ていた。
「大丈夫だ。ムゥの安全装置を信用してやれ」
「ムゥは私の使い魔ですもの。大公様を守ることはできません」
拗ねたようにジシュカが返せば、アグレアスはまた笑う。
「そうだな。では―――」
アグレアスの声に被るように機械馬が嘶き、急に止まる。
馬車は激しく揺れるが、飛び出したムゥによってジシュカはシートに留め置か
れた。
正面では、身動ぎもしないアグレアスが笑った。
それはジシュカが見たことのない笑みで、何を笑っているのかわからない。
「呼ぶまで出るな。必ず守れよ」

馬車の戸を開けるなり、アグレアスは飛翔した。
追って身を乗り出したジシュカに見えたのは、前方の炎。
機械馬はこの炎によって脚を止められたのか。
そして、その炎の上空に影が浮かぶ。
雨に邪魔されはっきりとは見えないその顔は、しかしあまりに有名な蒼と金の
オッドアイが瞬き、間違いようもない。
マスター・クリスタル―――!!
天と地獄、この世でただ唯一「精霊の加護」を得た男。
地獄の守護、いや魔王陛下の守護竜として数多の敵を屠ってきた者が今、ここ
にいる。

アグレアスは、クリスタルの正面に降りた。


 


to be continued…



 ◆ ◇ ◆


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イベントの詳細は、ARCHMASTERファンクラブサークル
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見込違いで、協力してもらって撮った挿絵が
次回回しになりましたm(_ _)m
引きとしてはこの方がいいんだけど、
いつになったら終わるのか、皆目見当がつきません(T ^ T)





アバター
2017/06/12 22:42
弱さも突き詰めれば強さと同等になる。
無知もまた弱さであり、強さである。
知ってることが武器になるなら、知らないこともまた武器なのだ。

なんて、考えてました。
アバター
2017/06/12 20:36
長くなりそうな気配が。。。

大して動いてないのに、ただ居るだけなのに、
すさまじい存在感ですね、東の大公爵アグレアス閣下…。
ジシュカの存在があることで、より大物感を強調しているんでしょうね~ ( ̄~ ̄lll)

すごいな…。

マスターと対峙して、次! この次はどうなるんですかーーーっ。
早く~早く~~~読みたいですー (っω`-。)
アバター
2017/06/10 19:37
大公様、大物感がぷんぷん臭う
で、何をしたいんだろう?
ジシュカは知らないから、反対に巻き込まれずに済むのかも?
クリスタルとの対峙・・う~ん、この次はどうなるの?
┣¨キ┣¨キ┣¨キ♡
アバター
2017/06/10 17:42
そうだねぇ~大作になりそうだし、いつになったら終わるんだろうねw

それにしても、この大公、何を考えてるんだろ?
クリスタルは、どんな思いで対峙してるんだろ?
次回が楽しみ~~わくわく~~.+:。((((o・ω・)o))) ゚.+:。ドキドキ♪
アバター
2017/06/10 14:54
ああ 背中に羽虫歩いている人いるよね^m^

ものすんごい大作になりそう〜
面白かった( ´∀`)
次回にも期待です
アバター
2017/06/10 13:10
>満員電車で背中に虫歩いているような人かな ジシュカ

クリスタル、意味不明・・・
アバター
2017/06/10 10:37
うわぁ、先が気になる……!

しかし、アグレアス大公閣下は格好良いですなぁ。
けっしてなることは出来ないタイプのお方だし、
なったら多分僕では重みに耐えかねて折れてしまうだろうけど
憧れてしまうなぁ。
アバター
2017/06/10 10:27
満員電車で背中に虫歩いているような人かな ジシュカ

うん コレクターっていうのは物に執着するから割合と長生きしても飽いたりしねーんだよな
酷薄そうなお方だねアグレアス閣下 しかもナルシスト!
俺だったら部下は全部俺の女だけどなぁ・・・モテないけど orz
次回が楽しみ!!!
アバター
2017/06/10 10:02
うーむ
アグレアス大公は何を企んでいるのかなぁ(´ω`*)。o○

次回いよいよマスター・クリスタルと対決なんだね^^
アバター
2017/06/10 08:29
はらはらどきどきですね。
相手から見たストーリーは又違うのですね。
アバター
2017/06/10 06:39
ジシュカにもなにか出来ることがあるのでしょうか。
う〜ん、どうなっちゃうんだろう〜?
次の展開にどきどきだぁ〜><



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