Nicotto Town



田付たつ子とパリのエッセイ

田付たつ子(辰子)をご存知の方はまずいらっしゃらないでしょう。
外交官の娘で3歳からパリで暮らし、外務省情文局に入り、
吉田茂の下で松方コレクション返還等に尽力した『官僚』です。

彼女は1950年代、パリの思い出を4冊のエッセイにまとめています。
『パリの甃』『パリの俄雨』『パリの雀』『パリの残雪』。
私はこの書で『フランス』『パリ』とはこういうものだと刷り込まれました。

いわゆる外国映画的な「いい話」が満載なのです。
街を流す椅子修理の老人が大貴族の末裔だったり、
隠遁した小説家が亡き彼女の忘れ形見に出会ったり……。

ひとつだけご紹介します。
仕事でパリを訪れた彼女が兵隊あがりの気さくな運転手のタクシーに乗る。
戦勝国でも敗戦国でも苦しさは変わらないという話になったあと、
彼は氏名と住所を書いた紙片を彼女に渡して、こう頼む。

「マダム、フランスでいつも変わらず旨いものはチョコレートだよな。
日本の流しの運転手さんで子供のたくさんある人に俺の住所を知らせてくれ。
俺はその子供さんにパリからチョコレートをおくるからよ。」

Monsieure Alban Monin
21 Rue Cavandish
Paris 19e

この結果、数多くのチョコレートと手紙が日仏の間を渡りました。
パリの市井の運転手、アルバン・モナンの名を私は記憶にとどめたい。
この4冊、古書サイトなら手に入ります。『甃』『俄雨』の2冊が特にお勧め。




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