Nicotto Town



松方弘樹の芸談に感嘆す


優れた芸論は万事に通ずると思うことは多い。古典を学ぶ意義の一つかな。
『秘すれば花』『名人が刀はいたく立たず』等々、好きな言葉は山ほどある。
ギター弾くときに参考にする発想には、偉人の経験談に依るものも多い。

松方弘樹が亡くなって、彼のインタビューが再放送されておりますね。
この人、マグロ馬鹿じゃないし任侠スターでもない。やはり時代劇の人だ。
近衛十四郎の息子ですもんね。見て学んだものが雲の上の水準なのです。

時代劇の方法論と、エレキギターの技術論を無理やり結び付けよう。
たとえば「殺陣の迫力」について尋ねられた松方は「静と動」と即答した。
若手が彼に教えを乞うた時の逸話が象徴的なので引用します。

若手に「何手(刀を交える回数)やるの」と尋ねたら「四百手」と答えた。
現代主流のアクション物みたいに休みなく刀を交え続けるらしい。
そんな演出で迫力が出るわけがない。手数や速度と、スピード感や迫力は違う。

……20代のころ、あるプロギタリストが仰った言葉がある。
「ユースケ、いっぱい音符弾くのとスピード感やスリルって違うじゃない?」
手数がやたら多いので、言えば分かると思って伝えて下さったのでしょう。

ギター界でハイテクというと、速く正確に音符を弾く技術になりがちです。
楽器の進化に伴い、エレキギターの弾き方も大きく変わった。
力まず撫でるように(スウィープという)、3~5音を一瞬で弾く。

タッピング(右手指でフレットを叩く)技法も非常に発展しました。
この結果何が起きたかというと。超高速の常套句の氾濫なのです。
インプロヴァイズではなく、修練した技法のエキシビジョン。

そこに物理的な速度はありますが、『スピード感』は欠落しやすい。
たった一音の持つ衝撃度や爆発、音楽の根底が蔑ろにされがちです。
松方の話と全く同じ。時代劇の衰退と音楽の衰退がどこか重なる。

もう一つ、『間・呼吸』の話。大川橋蔵と共演した時の逸話が面白かった。
「ボクが芝居をしているときは動かないでね」と言われたという。
これは舞台、歌舞伎に通ずる演技の方法論のようです。

バンドのバッキング、人のソロの裏でどう弾くか、ここに経験が出る。
若い頃の私はとにかく『絡もう』とした。下品なツイートみたいなもんです。
こういうのは品性が卑しい。淡々と刻むのが上品であり、格好良さに繋がる。

完全即興音楽でも同じ発想があります。好き勝手やるならソロでやる。
共演するからには、今だれが前に出たいと思っているか、誰を出したいか、
自分が前に出たいから抑えてほしいといった思いを「音」で伝えることもある。

他にも示唆に富む発言ばかり、見て真似て悩んだ世代の貴重な記録。
結局は「伝統の継承と発展」という、芸術全てに繋がる思想に帰結する。
時代劇凋落の時代、また『スタァ』が去ったのだなー、としみじみします。




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