Nicotto Town



小山田いく氏の訃報に接して


小山田いく氏の訃報をつぶやいたら反応してくださる方がいらっしゃいました。
マンガ界ではけっこう歴史的な意味のある作家さんだと思っているので、
少し雑文を書きたくなりました。リアルタイム世代の戯言です。

少年チャンピオンとキングは、他社と少し異なる『青春』の香りの作品がウリだった。
勧善懲悪や友情努力勝利から零れ落ちる、でも大切なものをささやかに描く。
『すくらっぷ・ぶっく』のファンではありませんが、この作品もその範疇に入ります。

少年キングでは神戸さくみ氏の『龍一くんライブ』を贔屓していた(今や誰も知らない)。
人気のあった『750ライダー』には古さがあったが、神戸氏はセンスが今風だった。
『すくらっぷ・ぶっく』を敬遠したのは、少々古風な倫理観が原因かもしれない。

丸みを帯び頭身を縮めたキャラクターは70年代終わりから各誌に現れた。
ギャグ作品と異なり、小山田氏の造型には手塚治虫の影響を感じた。
切り捨てたゆえに醸し出されるほのかなエロティシズム、かもしれない。

同時期の御厨さと美も、シリアスが本領だが軽い仕事では似た絵を描いていました。
吾妻ひでおも同じベクトルであり、この世代の手塚への傾斜がうかがえると思います。
そして、小山田氏のアシスタントをやっていた弟は、別路線を選んだ。

『精霊紀行』『軽井沢シンドローム』初期のたがみよしひさは衝撃だった。
スタイリッシュで流行の先端を行く若者たちの造詣とスピード感、過激ラブシーン。
兄が敢えて避け抑圧した部分を問うことが可能になった時代に、波に乗った。

たがみが多忙のためか、3頭身描写を中心にする時期から読まなくなった。
だが『軽シン』の耕平と純生の造形がどこか心に引っかかっていた。
訃報に接して何となく思った。あれは兄と弟である。おそらくそうだろう。

『軽シン』の倫理観は、族に憧れるが入る度胸のないグレ手前のガキの倫理である。
仲間が欲しい、女が欲しい、味方が欲しい、夢は叶う、好きなことだけやって生きたい。
刹那的な無謀な青春は『すくらっぷ・ぶっく』が敢えて切り捨てた部分だと思う。

ありゃ、小山田氏の話よりたがみよしひさの事が多くなってないか? マズいな。
軌道修正。たまに出てくる植物や生化学への造詣は珍しいとも思った。
この人は小学館などで学習マンガをやったらどうかとも考えた。ファーブル的である。

弟はおそらく、兄には勝てないと思っていたのではなかろうか。
小山田氏の堅固な倫理と博識を羨望しつつ敬遠し、別の道を歩んだのだろう。
たがみよしひさが、兄との思い出を作品化してくれたら嬉しい。昔の絵でね。




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