Nicotto Town



追悼 パット・マルティーノ



11/1に亡くなってたんですね。まずは合掌。
逸話だらけの巨人ギタリストですが、暴言を吐きましょう。
マルティーノ聴かなくても問題なし。ジャズファンもジャズギター弾きも。

主流・王道・本道というものからは無縁な人です。
ご存じない方のために単純化すると、ジャズギター界において、
モーダル/クロマティックな8分音符の表現を追究した人と言えるかな。

トレーンやセシルと異なり、生涯アバンギャルドとは無縁でした。
60年代後半、コリエルやマクラフリンが始めたロック手法の導入にも背を向け、
ただひたすら武骨な音で延々途切れぬ8分音符と強迫的オスティナートを続けた。

ジョーパスの名人芸、ウエスの華麗なドライブ感、ジムホールの和声感覚、
王道ジャズギターが極めた数々の頂とは全く違う山を、彼は登ってました。
彼の死後この山を登る人はいないはず。単純な技巧の問題ではありません。

代表曲として1972年の『Live!』冒頭の『Special Door』を挙げます。
この盤、B面の『Sunny』というリリカルなテーマを持つ曲の人気が高いけど、
一曲目のほうにマルティーノの『ジャズ』観が強く出ていると思います。

聴いて、どうでしょうか? 音楽好きで一家言ある人ならだいたい、
「はいはい、そういう音楽なのね」と呟き、盤を中古屋に持ってくでしょう。
アブストラクトにも聴こえる音列が、情感に訴えてこないのも頷けます。

切迫感、重圧、抑圧からの逃避……こうした印象抱く人が多いんじゃないかな。
ゆえに万人に勧められるわけもなく、ジャズ好きが聴く必要もなく、
王道目指すギタリストが手本にしたりコピーしたりする必然性も無し。

ゆえに大好きなのです。一般的『歌心』も革新的な『ハーモニー』もなく、
人と違う何かを創造したマルティーノ、未だによく聴くし、
種々のアプローチを下手なりに模倣したりもする。以下ギター弾き向け。

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4弦5F/3弦6F/2弦5F/1弦6F押さえるありきたりのデイミニッシュ。
ここから4つのうち任意の1音を半音下げると……
7thコードになる。上の場合だとF♯7、C7、E♭7、A7の4つですね。

調性的に素直に動けば、それぞれB/F/A♭/Dに解決させられる。
マルティーノがインタビューで披露していたアプローチなんですが、
私にゃ目から鱗でした。メカニカルなコードフォームの持つ可能性のひとつ。

どんな音が出てるか忘れて指板上での(視覚的に)メカニカルな動きから、
自分の演奏になかった新しい和声進行やフレージングを生みだせる。
この発想にお墨付きを与えてくれた偉大な先人、大恩人です。

色んなパターンを試します。どこか無調/十二音技法に響くことも多い。
こうした技巧から生まれるメロや進行には聴き慣れないものもありますが、
その齟齬を埋め紡ぐためにはクロマティックな音階が効果的に思えます。

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マルティーノとホールズワースには共通点があります。
徹底的に楽器の機械的な(機能的な)側面を探求し、
そこから生まれる新しい響きを、自己の音楽的語彙を深めるよすがにしたのです。

その結果生み出された彼らの音楽、はなはだ不本意でしょうが、
支持を得るには至っていません。間違いなく異端・傍流だからです。
音楽性の継承者もほとんどおらず、だからこそ燦然と輝いている。

二人とも歌心が無い、というか歌の『下手』なプレイヤーです。
でも自己に没入した饒舌で冗長なアドリブ・インプロのふとした音群に、
垣間見える『うた』の美しさを私は愛します。だから聴き続けるのです。




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