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つくしのつれづれノート


アボルダージュ土方…新撰組異聞

斎藤・永倉に続き第3段は新撰組副長・土方歳三です…っていっても残っている写真を観る限りで男前のイケメンでファンも多く(ひがんでるなあ…(笑))、今更まともなこと書いても知ってる人多いと思うので、今回は自分の生涯の一冊としている司馬遼太郎の明治小説「坂の上の雲」の観点から、土方歳三が参加した戊辰戦争の海戦・宮古湾海戦について書きます。

まず宮古湾海戦について一言…この海戦は旧幕府海軍が明治新政府海軍の主力になっていた装甲艦甲鉄を奪取を目的として、幕府海軍の軍艦「回天」から旧幕兵が甲鉄に飛び乗って斬り込み、甲鉄を制圧しようとした海戦です。

敵軍艦に接舷して白兵戦でもって敵軍艦ごと制圧する戦法をアボルダージュと呼び、「パイレーツ・オブ・カリビアン」でジャック・スパロウたちが敵海賊船に飛び移って敵とチャンバラを展開するあれがアボルダージュにあたります。
このアボルダージュ、軍艦が蒸気船となり大砲の飛距離が伸びた19世紀後半には普通考えられない古びた戦法なのですが、それでも無理強いしてやってのけた理由として海戦の舞台になった装甲艦甲鉄にあります。

甲鉄はもともとフランスで建造されたアメリカの船だったのですが(この持ち主の変遷がすごいややこしい。最初に発注したのはアメリカ南北戦争の南軍であり、戦争が終わって南軍の契約が破棄になった後デンマークが手に入れたこの船をアメリカが再買収したいきさつがあります。)、それを江戸幕府が購入するはずだったのですが、幕府は瓦解・直後に起こった戊辰戦争で旧幕府・新政府のどちらも欲しいと言ってきたために、アメリカは戊辰戦争の決着が着きどちらが正統政府かはっきりするまで売らないと宣言しました。装甲艦の名のごとく厚さ12センチを超える装甲が施された強力な軍艦だったため、どちらの側も欲しがるのは当然です。戦争は新政府軍の連勝が続き旧幕府側が函館共和国を作った時には、アメリカも明治新政府を正統政府と認め甲鉄は晴れて明治政府の軍艦となります。(ちなみにこの甲鉄、写真もありますがまるで海に浮かんだアイロンに見えます。(笑)「るろ剣」京都編で出てくる志士雄真の軍艦「煉獄」の姿は明らかに甲鉄のまる写しでした。)

戊辰戦争勃発当初、旧幕府軍の海軍は圧倒的だったのですが、戦争の経過とともに新政府に接収されたりして戦力が削がれ、とくに幕府最強の軍艦「開陽」が暴風雨で沈没したのは致命的で劣勢になってました。(開陽が沈没して行く様を陸から土方歳三は悔しそうに見ていたといいます。)
そこでアボルダージュ戦法で甲鉄を奪取すれば幕府側の劣勢を補える上に対外交渉も期待できるとしてこの宮古湾海戦が行われたわけです。

当初は当時の幕府海軍最強の回天(舟の側面に動力がついた外輪船なためアボルタージュが難しい。)がおとりになってる間に別の船二隻が挟み撃ちにして飛び乗り甲鉄を制圧するというものでした。制圧メンバーには新撰組や彰義隊など役100名の陸兵であり、当時陸軍奉行並となっていた土方歳三が検分役として回天に乗り込んでました。もしうまくいけば制圧することも夢ではなかったのかもしれません。が、しかし…

直前に幕府側三隻「回天」「高雄」「蟠竜」のうち「蟠竜」が嵐ではぐれてしまい、やむなく二隻で作戦決行することになります。そしていざ決戦!その日明治2年3月25日!!
…がその直前でなんとアボルダージュで接舷するはずの残った「高雄」も機関故障を起こし、接舷して甲鉄を制圧する役がアボルタージュが最も苦手な「回天」になってしまったのです。それでも回天は必死に接舷して斬り込み隊が甲鉄に飛び乗ったのですが構造上一度にたくさん飛び乗ることができず、結果甲鉄に装備されていたガトリングガンで次々と幕兵がなぎ倒され、宮古湾海戦のアボルダージュ作戦は失敗します。
それから3ヶ月後に最後の砦となった函館で土方歳三が戦死・旧幕府軍が降伏して戊辰戦争が終結します。

冒頭でこの宮古湾海戦を日露戦争を主題にした「坂の上の雲」と関連付けましたがそれはこの海戦に新政府側としてまだ若い東郷平八郎(日露戦争時の連合艦隊司令長官)が参加していることにあります。東郷はこの海戦で幕府側のアボルタージュに衝撃を受け、「以外こそ起死回生の秘訣」として、のちの日本海海戦における「東郷ターン」の判断にまで影響を与えたといわれています。戊辰戦争終結後東郷は西郷隆盛のすすめで海軍を志して留学しますが、留学先のイギリスですでに世界的に有名になっていた宮古湾海戦の参加メンバーということで周りから英雄視されていたそうです。

なんか土方歳三の影が薄い…すみません。

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2012/04/23 23:18
東郷平八郎が「坂の上の雲」のメインキャラの一人である為、日本海海戦にまで影響を残してるといわれる宮古湾海戦については土方歳三・回天と共に東郷のエピソードのひとつとして登場します。新聞連載時のイラストには回天と土方の肖像が描かれていました。

「新撰組血風録」は読んだのですが(「燃えよ剣は」恥ずかしながらまだ未読…)その中で一番好きなのは「四斤山砲」で新撰組の主流と言える話ではありません。(NHKのドラマでも省かれてたみたいだし…ちょっと寓話っぽい感じでした。)実をいうと司馬遼太郎の近代ものに関して新撰組よりも明治期を描いた「翔ぶが如く」「殉死」「坂の上の雲」の方が好きなんです。

この戊辰戦争もののブログは次でラストなんですが、次の人物上記の理由で主役ではないにしろ「翔ぶが如く」「坂の上の雲」で食い込んで登場する立見鑑三郎尚文を予定してます。(新撰組ではない)彼は戊辰戦争で新政府軍を最も苦しめた桑名藩雷神隊隊長であり、西南では西郷を自刃に追い込み、日清・日露でも戦局を左右する戦いにおいて大活躍した「幕末明治最高の指揮官」「東洋一の用兵家」とうたわれる人物です。(戊辰を旧幕府軍として戦ったものとして唯一陸軍大将に上り詰めるほどその能力は高かった。)
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2012/04/23 22:44
「坂の上の雲」からの土方論……珍しいですね。
司馬先生で土方といえば、やはり「燃えよ剣」でしょう。「新選組血風録」も良いかと。
もし読まれてないようでしたら、ぜひ!




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