Nicotto Town


つくしのつれづれノート


ヒッキー・オタク…

室町幕府創始者にして大河ドラマの主人公にもなった(91年大河ドラマ「太平記」)室町幕府初代将軍・足利尊氏。
実質鎌倉幕府を滅ぼし、建武政権を崩壊させて室町幕府(室町幕府と正式に呼ばれるのは3代義満以降)を発足させ、晩年は無二の弟と対立して内乱を引き起こし死ぬまで南北朝動乱を戦い抜いた波乱万丈な人物なのですが、幕府創設者として個人的な実力がすごいのかというとそうでもなく、資料から垣間見れる人物像は

タイトルにしたヒッキー・オタクのイメージがこれほど似合う人はいないという感じだったりします。


・まずヒッキー(引きこもり)…この人、自らが苦境に落ちいたりする度に出家して隠居しようとしたり、切腹しかけたりするんです。
その一方で鎌倉幕府を滅ぼし、建武政権を崩壊させて天皇に弓弾いたり(そして後で非常に後悔する)と非常にアクティブな一面もあり、尊氏の生涯をひもといていくとこのネクラとネアカが波のように交互に展開してる感情の起伏の激しいところから、尊氏は躁うつ病だったのではないかと推測してる人がいます。
ちなみにこの人、幕府を創設してめでたく将軍になった直後、「おれの仕事は終わったから後はみんなに丸投げ」的な感じで政務を無二の弟足利直義に任せ、自らは楽隠居を決め込むつもりでいたようです。(ニート?とにかくこの人隠遁願望が強い。)実際に弟直義が政務において大変優秀で室町幕府の整備もこの人なしではあり得なかったとは思うのですが、この尊氏の丸投げが後に観応の擾乱という大規模な幕府の内乱の要因の一つになり、尊氏の手で弟直義を手にかける結果となってしまいます。




・そしてオタク…この人、趣味である歌詠みは凄まじいものがあり、鎌倉幕府滅亡以前の1326年に編集された勅撰和歌集
「続拾遺集」に

かきすつる 藻屑なりとも この度は かへらでとまれ 和歌の浦波

という尊氏作の和歌が入っているのですが訳すと「このろくでもない歌だけど、お願い!今度こそ入選して!!」という意味であり、動乱以前の尊氏(当時は高氏を名乗っていた。)は熱心な投稿少年だったようです。
将軍になった後もその情熱は変わらず、自ら勅撰和歌集「
新千載和歌集」を企画したり、連歌集「菟玖波集」 では全2190句の内、尊氏の句が68句収められたりしています。
感覚としてはコミケの同人誌をみんなで作る感覚に近いといえます。(しかしながら「源氏物語」をはじめ江戸以前の文学の多くがこの同人誌的感覚で作られているので、これを以ってオタクと決めつけるのも酷ではあります。とはいうものの将軍職をかまけて趣味に走るのもどうかと…)
また尊氏は絵もよく描いており(現存している)政治家というよりも趣味人がよく似合う人物だったのは間違いありません。
もしかしたら尊氏は現代を生きた方が幸せな、いわゆる生まれる時代を間違えた人の一人だったかもしれませんね。(何せ尊氏の人生は傷だらけの人生そのもですし。)



こうしてみるとなんでこんな人が動乱を勝ち抜いて天下人たる将軍になったかわけがわからなくなります。
一寸先は闇の動乱期において苦境に立たされるとすぐに自殺願望が湧いたり出家しようとしたりする頼りなさは、どう見ても下々がついていくとは思えないのですが、家臣をはじめ多くの武士が尊氏の下に馳せ参じて幕府創設まで展開して行くわけですから不思議でなりません。
もしかしたらその頼りなさが下々の武士が「この人、ダメ人間だからおれが守ってやらねば!!」とヒロイズムを起こして奮起した結果なのかもしれません。(まさにダメ人間萌え!!こういう人巷にいますよね。)尊氏はそういった部下に対して褒美を大判振る舞いしたといい、そういった人当たりの良さが尊氏の最大の魅力・武器だったのかもしれません。
(足利家は源頼朝と先祖を同じくする源義家の末裔であり、鎌倉末期においては鎌倉幕府最大野党にして清和源氏最大勢力なのですが、この尊氏のカリスマに対してはそいった家柄のブランドだけでは片づけられないところがあります。)




ちなみに足利尊氏の肖像についてよくいわれるのがザンバラ頭の騎馬武者像なのですが、あれは別人(尊氏の執事高師直説が有力)だということであり、代わりにささやかれているのが神護寺三像(平重盛・源頼朝・藤原光能の三像)のひとつ平重盛像が足利尊氏像であるという説(と同時に源頼朝=足利直義であるという。)であり、他の尊氏の肖像画木造と比べると何となくに通っている感じがします。
それらに共通している尊氏の肖像は

うすぼんやりとしたマヌケな顔であり

名門出身のおおらかなおぼっちゃん的な印象を受けます。

余談ですが日本では神護寺三像のなかではキリッとした目つきの源頼朝像が一番人気なのですが、実はヨーロッパでは足利尊氏説がささやかれる平重盛像の方が高評価で人気が高く(そのぼんやりした間抜けな表情が人間の煩悩をうまく表現していると評価しているということであり)、かつて「モナリザ」を日本で特別展示した時の交換条件でこの平重盛像をルーブル美術館で特別展示されたことがあります。(つまり「モナリザ」と同格!!)





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