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つくしのつれづれノート


ひとびとの跫音

去年NHKスペシャルドラマとして映像化が完結した司馬遼太郎の「坂の上の雲」には、プロトタイプといえる「殉死」(主人公は第三軍司令官・乃木希典陸軍大将)・プロローグにあたる「翔ぶが如く」(征韓論~西南戦争。「坂の上の雲」の登場人物が結構出ている。)・副読本ともいえる「明治という国家」など幾つか関連作品があるのですが、
その中で続編に位置付けられている作品が「ひとびとの跫音」という作品なんです。

この「ひとびとの跫音」は司馬遼太郎作品の中でも特に異色な作品です。

まず主人公ですが、「坂の上の雲」の主人公の一人である俳人・正岡子規の死後に妹・正岡律の養子となった正岡忠三郎というひと(正岡子規の伯父である外交官・政治家の加藤恒忠の3男であり、この加藤恒忠が「坂の上の雲」の主人公の一人である秋山好古陸軍大将と親友だったため、子規死後の正岡家は子規の親友だった秋山真之よりも秋山好古
にゆかりが深い印象を受けます。)であり、この人は子規死後の正岡家の当主という以外は政治家でも軍人でもない大阪梅田の阪急デパートに務めた一般のサラリーマン(入社当初は車掌もやってたそうです。)という司馬文学中最も異色な主人公なんです。

次に扱っている時代が「坂の上の雲」後ということで、司馬作品としては例外的に戦前の昭和初期が描かれている作品であるということ。

そしてなんといってもこの作品の最も異色なところは小説とも随筆とも言い切れないきわめて独特な作風であり、内容は正岡忠三郎の生涯を中心に彼と交流のあった個性的な人物との歩みを、正岡忠三郎の友人だった司馬遼太郎の視点で描かれているんです。

司馬遼太郎と正岡忠三郎の交流は「坂の上の雲」からと見られ(「坂の上の雲」を執筆するにあたり正岡・秋山両家の関係者を囲んで食事会をしており、その時の光景が「ひとびとの跫音」に詳しく描かれている。)、忠三郎とは住まいが同じ大阪と近かった為にその後も交流が続き、忠三郎の死の際には司馬遼太郎が葬儀委員長を務めたそうです。
そのためこの作品は司馬遼太郎と正岡忠三郎の交流の記録と言う側面も持っています。

小説と随筆の中間と言う独特な作風に市井を生きる無名の一般人を主人公にしたこの「ひとびとの跫音」。
読んだらきっと司馬遼太郎の新たな魅力を発見すると思います。
大変おススメ!!





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