Nicotto Town


つくしのつれづれノート


さよなら妖精

一度は販売展開のミスで闇に葬られかけたアニメ「氷菓」を構成する古典部シリーズを復活させた米澤穂信の代表作「さよなら妖精」を昨日読みました。
この「さよなら妖精」はデビュー作「氷菓」から数えて3作目に当たる米澤穂信の初期作であり刊行から8年立つのですが、いまだに米澤作品の最高傑作と高評価を受けている作品です。
昨日読んだ自分も全ての米澤穂信作品を読んだわけでは無いのですが、古典部シリーズや小市民シリーズより高評価を受けてしかるべき小説だと同感しました。



以下はあらすじ…
1991年の4月、下校途中の守屋と太刀洗は雨宿りをしていた宿なしの外国人少女と出会う。
ユーゴスラビア人のマーヤと名乗るその少女は守屋たちの働きかけにより、友人宅の民宿でホームステイすることになり、マーヤと町を散策するようになった。
しかし、マーヤのホームステイ期間終了間際にその平穏な日々は一変した。

ユーゴスラビア紛争の始まり

自分の出身地を明らかにしないまま帰国したマーヤはユーゴスラビアの戦火の中に消えた…
守屋はマーヤに会う為、彼女と過ごした日々の中から拾い出したヒントからマーヤの出身地を探り出そうとするが…




ユーゴスラビア紛争は1991~2000年まで続いたユーゴスラビア内で起こった複数の国の独立によって起こった戦争であり、はげしい戦闘と虐殺によって甚大な被害をもたらしました。(残念ながら紛争の火種はまだ残っており、紛争の再燃も懸念されています。)
自分が小学校時代に展開していた戦争ということで、空爆の様子や戦闘映像がニュースで連日生々しく報道され、連絡を取り合った直後戦闘に巻き込まれて友人が殺されてしまった話など道徳の時間に聞いたのを思い出します。

ユーゴスラビアは紛争の末、今は多数の国に分裂して今はもうありませんが、紛争前は「七つの国境・六つの共和国・五つの民族・四つの言語・三つの宗教・二つの文字・一つの連邦国家」 と言われた多民族国家であり、ユーゴスラビア人という表現はものすごいおおざっぱな表現みたいです。

作中では1991~1992年はまさに民族対立から深刻な紛争に展開する瞬間(作中では10日間戦争を皮切りに後に泥沼化するクロアチア紛争とがボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の開戦初期までが描かれており、後にWWⅡ以降のヨーロッパ最悪のジェノサイドと言われるスレブレニツァの虐殺は描かれていない。)が描かれており当時の情勢から戦乱の始まりは予感してたと思いますが、
その中でもヒロイン・マーヤは各民族の混血児としてユーゴスラビア人を称し、将来政治家になってユーゴスラビアをもりたてて行くことを夢にし平和を願いますが、その夢は紛争の始まりで打ち砕かれます。
そしてその結末は思わず胸が締め付けられてしまいました。

この小説のメインヒロイン・マーヤは古典部シリーズのヒロイン・千反田えるを彷彿させます。
好奇心の塊として「わたし気になります」の決めゼリフでホータローを推理に引きずり込むえると同じく、異国である日本を散策するマーヤが気になる日本独特の物事に対して「哲学的意味がありますか?」のセリフで守屋たちに問いかけます。
当時絶体絶命状態にあった古典部シリーズ(ライトノベルレーベル・角川スニーカー文庫スニーカー・ミステリ倶楽部で「氷菓」「愚者のエンドロール」の初版が出ていたものの売れなかった上、レーベルの消滅で古典部シリーズの続編が書けない状態になっていた。)への強い愛着をうかがうことができます。
しかし、「さよなら妖精」の結末はすごく切なく秀逸なものである為、アニメ「氷菓」の標榜する「青春は優しいだけじゃない、痛いでもない、ほろ苦い青春群像」の究極系であるともいえます。
この「さよなら妖精」が高評価となって廃止となったラノベレーベルで埋もれかけた古典部シリーズが地味ならがら良質のミステリということで角川文庫で復活し現在のアニメ化まで展開する為、この小説なくして古典部シリーズは語れなかったりします。


…ところがこの記事を書くにあたり調べてみたら意外なことが判明!!
この「さよなら妖精」は当初古典部シリーズ第3弾として書かれるはずっだった小説ということなのです!!

よくよく考えてみれば作中に登場する、守屋・太刀洗たち同級生4人の正確は確かに古典部の4人を彷彿させ、舞台になっている観光都市・藤柴市も古典部シリーズの神山市と同じく飛騨高山を舞台にしてると思われます。

・守屋…マーヤに魅了される探偵役。ホータローに相当か?
・太刀洗万智(センドー)…勝気なでクールなヒロインで米澤穂信の米澤作品中1番のお気に入りキャラだとか…古典部シリーズから脱却した新キャラということで立ち位置は異なるものの何となく摩耶花に似てるような…
・文原…マーヤの故郷を探す守屋にユーゴスラビアの情報を提供する。データベースの福部に相当か?
・白川いずる…マーヤの下宿先の旅館「きくい」の娘であり、人情派の優しく世話好きな女の子。このいずるが千反田えるをベースにしたキャラクターということです。当初ヒロイン・マーヤがえるポジションのキャラだと思っていましたが、もしかしたらえるの「わたし気になります」の部分だけ切り離したのがマーヤなのかもしれません。
ちなみにアニメ「氷菓」こと古典部シリーズの千反田えるのネーミングは築180年の歴史を持つ四反田旅館が由来となっており、いずるの旅館「きくい」もその作中描写から四反田旅館がモデルではと思われます。

そんなわけで古典部シリーズとしても読んでみたいという欲求もありますが、正式に古典部シリーズとして後に出た「クドリャフカの順番」以降の古典部シリーズと比べると「さよなら妖精」は古典部シリーズから切り離して正解だったと思います。「さよなら妖精」を古典部シリーズとしてたら今の展開とは明らかに異なるシリーズ展開になっていると思われるので…

ちなみに「さよなら妖精」は一応一話完結のノンシリーズなのですが、ここで登場した太刀洗万智を探偵役にした短編連作が存在し、ベルーフシリーズとして展開しています。
まだ単行本化されてないので読んだことないのですが、

わたし、すごく気になります!!


≪追記≫ちなみに「氷菓」でバックパッカーであるホータローの姉・折木供恵がラストで滞在する街が旧ユーゴスラビアのサラエヴォ(現ボスニア・ヘルツェゴビナ首都)なのですが、これが「さよなら妖精」が古典部シリーズとして書かれた場合に機能する伏線の名残だったのではないかと思われます。

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2012/08/01 16:29
おお~このあいだ話してた「さよなら妖精」読んだんですね~^^
面白そうなので今度図書館で借りてきますッ!




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