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つくしのつれづれノート


日露戦争勝利の秘史 敵中横断三百里


1957年の白黒映画です。
今日3月10日は日露戦争(1904~1905年)最後にして最大の陸戦である奉天会戦に勝利した日であり、それにちなんで奉天会戦勝利の裏側で活躍した偵察部隊を描いたこの映画
「日露戦争勝利の秘史 敵中横断三百里」
を紹介しようと思います。



まずはストーリー内容から

日露戦争末期・奉天会戦前夜の明治38年(1905年)1月
満州を戦場にロシア軍相手に何とか連戦連勝を重ねてきた日本陸軍の満州軍だったが、もはやその兵力に余力はなく次の決戦でロシア軍に決定的な大勝利を収める以外に戦争終結の道がなかった。
この重大な局面にロシア軍の情報を得る為、騎兵斥候隊が結成され敵地へ送られた。
騎兵将校・建川中尉に率いられた6人の騎兵斥候隊は満州軍25万の命運を背負って満州の大地三百里を駆けめぐる!!


この物語は日露戦争の実話をもとに戦前の少年雑誌「少年倶楽部」で連載された小説(今でいうライトノベルに相当するといってもいい代物)を映画監督の巨匠・黒澤明・小国英雄(黒澤映画の脚本を多く手掛けている)の脚本によって映画化されたものです。

とにかくロシア軍の動向を探る為、建川騎兵斥候隊はロシア軍の衣装をまとって長大の名ロシア軍の陣地をおおまわりに駆け回ります。
映画では騎兵斥候隊がとにかく満州の大雪原を
駆ける!! 駆ける!! 駆ける!!!
弱小の日本騎兵部隊で結成された作中の建川騎兵斥候隊にそれを阻むロシア軍のコサック騎兵、日露それぞれを支援している満州馬賊…
とにかく映画の一部始終隅々に至るまで
馬 ウマ うま な映画です。

さすがに満州のある当時の中国で撮影はできるわけないので、北海道で撮影されたものと思いますが、何にもない地平線を騎兵が駆ける様はすごく壮観です!!
(同じ日露戦争を題材に最近放送されたNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」でも戦場を騎兵が駆けるシーンが見事ですが、それよりすごいかもしれません)






映画の主人公とも言える日本の騎兵は維新の頃土佐藩が組織した騎兵部隊20騎から始まったといわれ、後に「日本騎兵の父」といわれる秋山好古が日露戦争で騎兵部隊が活躍できるまでに育て上げたというのは司馬遼太郎の「坂の上の雲」なんかでも述べられているところなのですが、
騎兵という兵科は歩兵・砲兵などの他の兵科に比べて運用方法が難しい上にコストが圧倒的にかかり、当時の重騎兵(南蛮甲冑のような胸当てを付け突撃する)・軽騎兵(軽装備で後方撹乱・奇襲を主とする)・竜騎兵(騎馬は移動用で騎兵銃を持って歩兵戦を仕掛ける部隊。「ドラグーン」とも呼ばれる。)のような列強並みの騎兵整備をする余裕が日本には無かった為、
日本騎兵は軽騎兵に竜騎兵の性格を持たせるというような無茶な整備をやらざるを得なかったのだそうです。
日露戦争の記録写真からみる日本騎兵の軍馬は現在見られる乗馬用の馬に比べると圧倒的に小さく、当時の日本の苦労がしのばれます。
そんな状況の中、秋山好古は敵地深くに騎兵を潜り込ませ後方撹乱する挺身騎兵戦法を提唱し日露戦争で実行することになります。
作中で描かれている建川騎兵斥候隊はその一環とも言えるかもしれません。
なお、建川騎兵斥候隊とは別に同時期に秋山好古が肝いりにした挺身騎兵戦法を忠実に実行した永沼挺身隊という騎兵部隊があり、この部隊がロシア軍の後方でゲリラ活動を展開して暴れまわったため上記の奉天会戦の際にロシア主力騎兵部隊約3万を前線から離れた工法にくぎ付けにした大戦果をあげています。


こうして日本陸軍の満州軍が最後の大決戦として挑んだ奉天会戦(ロシア軍37万×日本軍25万)は、約2週間ににわたる激戦の末、ロシア軍が退却した満州軍は勝利をおさめます。
それが1905年の3月10日になります。

しかしそれはロシア軍を再起不能にする大勝利ではなく、何とか奉天以北に追い出した6分4分の日本の優勢勝ちといえる辛勝に直接戦争終結に結びつけることはできませんでした。もう一度同じ規模の大会戦を行えば満州軍の壊滅は必至でした。
(とはいえロシア側の総司令官クロパトキン大将が真っ先に逃げ出したために、ロシア軍は動揺して軍を形作る秩序が崩壊し、再起に数ヶ月要したという。)
日露戦争はその後、5月27日の日本海海戦で日本海軍連合艦隊がロシアバルチック艦隊を壊滅させたことで日本陸軍の補給の命綱である日本近海および公開の制海権を確立したことで、ロシアを講和会議に引きずり出すことに成功し、
1905年9月のポーツマス条約締結で日露戦争は終結します。

しかしこの戦争の主役はあくまで陸戦がメインとも言える戦争だった為、辛勝と言いながらもヨーロッパ最強クラスのロシア軍を奉天会戦で破ったことは日本にとって大事件であった為、奉天会戦終結の3月10日は戦前陸軍記念日として祝われました。(日本海海戦の5月27日も海軍記念日となり、こちらは旧海軍を母体とする海自を中心に今でも毎年5月27日に横須賀の記念艦となった戦艦三笠の前で記念式典が行われています。)





その奉天会戦からちょうど40年後の1945年3月10日
太平洋戦争の戦時下だったさなかアメリカ軍の爆撃機B29の大群による帝都東京への大規模な焼夷弾による爆撃が行われます。
有名な東京大空襲です。
世界最大規模の爆撃被害をもたらしたこの東京大空襲は、日本の指揮をそぐ目的で3月10日の陸軍記念日をわざわざ狙って行われたとも言われています。
それを考えると3月10日というのは日本人にとってとても複雑な日とも言えます。
(翌日3月11日が東日本大震災が起こった日でもあるわけで…)







…後半映画ではなく戦史論論評みたくなりましたが、いずれにしろあの戦争の勝利が様々な裏方の活躍によって支えられていたというのがよくわかる映画だとは思いました。
この映画今はTUTAYAでも普通に置いてある映画なので簡単に見ることができますよ。

アバター
2014/03/11 17:44
あくん様へ…白黒映画って色が付いてない分陰影がはっきりして、その分カラー映画よりも強烈な印象を残す画面作りが多いんですよね。
戦争映画なんかでもその点で強烈に感じるんですが、それに加え特撮を交えたものも白黒故にカラーよりもごまかしがきくうえに質感が出て、実景さながらの大迫力を感じるんですよね。
その点でおススメなのは
戦時中の42年「ハワイ・マレー沖海戦」と65年「太平洋奇跡の作戦キスカ」の二作品です。
いずれも円谷英二の特撮映画であり、円谷特撮の最高傑作といっても過言ではありません。
アバター
2014/03/11 17:35
saki様へ…戦争映画ですがやっぱりこれ馬映画ですよねwww
騎兵というだけに当然乗馬のプロですから会話・行動も馬に関するものがやたら多いです。(持ってきた饅頭を馬と分かち合ったり…)
満州の荒野を騎兵斥候隊が孤軍奮闘状態で駆ける姿は本当にカッコイイです。
これは白黒ですがドラマ「坂の上の雲」をみると明治時代の騎兵の軍服って大変煌びやかでおしゃれですよね(^-^)
アバター
2014/03/11 08:29
おはようございます。
モノクロの戦争映画は素晴らしいものが多いと聞きます。
エヴァの庵野監督も実はこの辺りの戦争映画に影響を受けたのだと何かインタビューで言われていました。監督の名前や映画の題名などは忘れてしまいましたが。ひょっとしたらここで紹介されているものもその一つに挙げられていたかもわかりません。僕も時間があればぜひ見てみたいと思いました。

アバター
2014/03/10 23:22
おおお、ご紹介ありがとうございます。
これはまさに馬映画ですね。見なくては。
『坂の上の雲』の世界ですね。ふむふむ。




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