秋季限定栗きんとん事件
- カテゴリ：小説/詩
- 2012/09/23 20:35:29
小市民シリーズはこの間最終回を迎えたアニメ｢氷菓｣の古典部シリーズに並ぶ米澤穂信学園ミステリーシリーズです。
今日紹介するのは現時点での最新作である前後編二巻のシリーズ最長編、3作目｢秋季限定栗きんとん事件」です。
基本設定は周りを騒がせる本性を隠して平穏な日常を目立たず過ごす小市民を目指して行動を共にする小鳩君と小山内さんが心ならず(?)も次々と事件に遭遇していくものなのですが、2作目｢夏季限定トロピカルパフェ事件」のラストで衝撃的な展開を迎えた為に、3作目が出るまでの数年間続きが気になって大変ヤキモキしたのを思い出します。
そのヤキモキを解消させた3作目「秋季限定栗きんとん事件」は、2作目の直後から1年かけて各登場人物がそれぞれ街を騒がせる連続放火魔を追跡していく様子が展開されて行きます。
あらすじ
｢夏季限定～」の後、疎遠になった小鳩君と小山内さんにそれぞれ彼氏・彼女ができた！小山内さんと付き合っている新聞部の瓜野君は、巷を騒がせている連続放火事件の記事で犯行現場の予測を次々に的中させて頭角をあらわす。やがて部長となった瓜野君は手柄を挙げる為に、新聞部員を総動員して犯人を捕まえようと活動をエスカレートしていくが…
一方ふとしたきっかけで連続放火事件の裏で小山内さんが暗躍していることを知った小鳩君も、幼なじみの新聞部・前部長の健吾と共に放火犯探しを始める。
一度は別れたはずなのに事件を追うごとに距離が縮まっていく小鳩君と小山内さん。果たして二人は再び相見えることができるのか？
放火事件をめぐって様々な思いが交錯していく中、物語は衝撃的なクライマックスを迎えることに…!?
小市民シリーズって基本探偵気どりの小鳩君の視点から描かれている小説なのですが、この｢秋季限定～｣は小山内さんの彼氏・瓜野君がもう一人の主人公とする複数の視点から描かれており、放火事件を追うふたりのスタイルのギャップが面白いです。特にせっかく彼女ができたのに彼女そっちのけで謎解きに走る小鳩君のダメ人間ぶりは笑えます。
そしてこの｢秋季限定～｣のメインテーマは情報。事件の展開が様々な情報によって動いてくるのは推理小説のセオリーなのですが、新聞部の報道によって放火事件が劇場型犯罪になったり、情報操作によって事件に介入したりと情報による事件展開が特に顕著だったりします。
っていうか学生がスパイや情報屋としてリアルに暗躍する学園ミステリーっていうのには本当に新鮮でした。 そしかしなんといっても一番は羊の皮をかぶった狼であるヒロイン・小山内さんのやったこと。前作｢夏季限定トロピカルパフェ事件｣で完全犯罪をやってのけている彼女なんですが今回もやってくれます。この小山内さんの所業って読む人によっては後味の悪いバッドエンドとして賛否両論なところがあるのですが(書評の中には読んだ感想によって読者の性格を分析しているものもあって笑えました。)、アニメ｢氷菓｣が物足りないと思う方はおススメできる小説ですよ！さて、この古典部シリーズは次回作｢冬季限定～｣でラストを迎えることになるのですが、この3作目「秋季限定栗きんとん事件」出てからもう3年経てなお新巻刊行の動きがないんですよね。（本当に米澤穂信作品はストーリー展開が遅い…）毎年出ているミステリー情報読本｢このミステリー作家がすごい｣で米澤穂信はチェックしてるんですけどそこからも小市民シリーズについてはなんの音沙汰もなんの音沙汰もない…（ちなみに「秋季限定～」の刊行予告が出たときも結構遅れて出たのを思い出します。）
この小市民シリーズは去年の2月までコミカライズ版が展開していたり(｢夏季限定～｣までコミカライズされています。)今年アニメ｢氷菓｣の展開で古典部シリーズに並ぶ同作者の学園ミステリーとして少なからず注目も浴びてるわけでして、この勢いに乗じて｢冬季限定～｣によるシリーズ完結とあわよくば映像化（できればアニメ化）実現を期待してしまいます。
っていうか小市民を目指してきてどんどん変化していったふたりの関係にどうオチがつくのか、シリーズ全体の伏線にも見える小市民を目指すきっかけになった小鳩君の中学時代のトラウマと元カノ（作中で「あの子」と表記される）との関連が「冬季限定～」で語られるのか…
わたし、気になります!!
小市民シリーズ前二作のレビューも以前書いてますのでよろしかったら参考にどうぞ
春季限定いちごタルト事件↓
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1032798&aid=42400856
夏期限定トロピカルパフェ事件↓
http://www.nicotto.jp/blog/detail?user_id=1032798&aid=42546067
