Nicotto Town


つくしのつれづれノート


創作時代小説 兄弟1

とある兄弟がいた。

 弟が母の胸に抱かれながら戦で混乱する都を彷徨っていた時、兄は今まさに首を刎ねられようとしていた…



 この戦はこの兄弟の父親が起こしたものだった。先の合戦で武功を挙げたものの宮中から優遇されなかった父親が一時的に空白地帯となった都を挙兵してクーデターを起こして一挙に占拠してしまったのである。しかし驕れる者は久しからず、一瞬のスキを敵方につかれて形勢逆転され敗走した。三日天下にもならないあっという間の出来事だった。

 父親は都を逃れ東へ落ち延びようとしたが途中敵方に捕捉され討ち取られた。

 戦に参加した兄は敗北と同時に父親共に都を逃れたものの、東へ落ち延びる途中で父親からはぐれ、山野を彷徨った末に敵方によって捕らえられた。
 既に父親は討ち取られたとはいえその息子である兄は反乱軍の首謀者の一人としてとして首を刎ねられねばならなかった。後顧の憂いを断つうえで当然の処置であったし、首を刎ねられる兄本人でさえその覚悟をしていた。
 しかし、敵方の大将が兄の処刑を命じようとしたとき、それに異を唱えるものが現れた。敵の大将の義母である。この義母は捕らえられた兄の顔立ちが早世した実子に似ているとして助命を嘆願したのだ。武将としての常識を覆すまいと敵の大将はこれをはねのけようとしたが、義母が助命の為に断食を始めたので敵の大将もついに折れた。
 兄の命は救われた。
 兄は死一等を免じられたかわりに東の辺境に流罪となったのである。

 東の辺境に流された兄の境遇は旧知の従者を側に置くことを許され、時には近隣の豪族の巻き狩りにも招かれるなど都から下った名士して遇されていたらしい。
 しかし立場が流刑者であることには変わりない。

 こんな話がある。ある時、兄は地元の豪族の娘に手を付け、娘との間に男児を儲けた。
そのことを知った父親の豪族は激怒した。既に世はこの流刑人の父を滅ぼした敵の大将が栄華を極めており、その中で戦犯である流刑人の子供が存在してはならないのである。その子の母が自分の娘とあれば自分の一族の存亡すら危うい…
 豪族は娘から兄の子を取り上げて殺し、兄自身の命をも狙わんと討ち手を放った。身の危険を察知した兄は辛くも脱出し近隣豪族にかくまわれて危うく難を逃れたという。
 自分が戦犯の流刑人という立場を思い知らされた瞬間であった。自分一人の身の上でさえ思い通りにはいかない。天地がひっくり返るようなことにならない限り、この兄は何もできずに戦で非業の最期を遂げた親兄弟の菩提を死ぬまで弔い続ける運命になるはずであった…





 一方、赤子であった弟の方も合戦の終結からほどなくして母親と共に捕らえられた。
既に兄の処刑が取りやめられ流罪が決まった直後のことである。そのことがあるため敵の大将と言えどももはや簡単に手出しができない。
 結局弟の方は母親から引きはがされ、都郊外の寺に預けられ出家することが決まった。

 弟は寺の小僧として育ったものの都から何分近い故、人伝いに自分が合戦で滅ぼされた敗軍の将の子であることを子供心に薄々感づいていた。自分が寺に押し込められた何一つ満足にでき名不自由な身の上であるのに対して、自分の父親を滅ぼした敵の大将は宮中を牛耳って都で栄華を極めていた。弟はそれを横目で見るたびに腹を立てこう思った。
「戦の結果が逆だったらあの栄華は俺の一族のものだったはずだ…」
 そのやるせない気持ちが心を荒ませ寺を抜け出して都を徘徊しついには悪僧などの都の鼻つまみ者たちを従えて暴れまわり日々都の市中を騒がせた。その荒くれぶりは宮中にいる敵の大将の耳に届くほど評判になり、いよいよ弟が寺に押し込められて頭を丸めて出家する日が近くなったと市井の人々は噂しあった。

 それを聞きつけて面白がる人間がいた。最果てで繁栄する北国と都を行き来する商人であった。商人はやさぐれた弟に対して言った。
「そなたの才能は都で腐らせるにはあまりに惜しい。坊主になるのが嫌ならば都を落ち延びて北国で武将にならないか。」
 商人は敗残の身でありながらなおも反骨で徒党で暴れまわるこの子供に武将としての才を見出したのである。そのことを商人は北国を支配する覇王に知らせたところ北国の覇王は大変な関心を寄せ、
「ぜひとも欲しい。その才能を磨き上げ自分の旗下の有力な客将に迎え入れたいものだ。」
というのである。
 北国は噂では都よりも輝かしい黄金楽土というが、兄が流されたという東の辺境よりも遠い最果ての地である。そのような遠国に正体のわからぬ怪しい商人の口車に乗せていくなど。奴隷として売られにいくに等しかった。
 しかし弟はこの話に飛びついた。
 どうせ都にとどまっても出家させられ死ぬまで寺に縛り付けられるだけ、それならば鬼が出ようと蛇が出ようと天運に身を任せればいいと思ったのだ。
 そして弟はこうも思う。
「いずれ北国の大軍勢を率いて敵の大将を栄華の頂点から引きずり降ろして自分が成り代わってやろう」
と…
 こうして弟は生まれ育った都をひそかに抜け出し、最果ての北国へ向かい、北国の覇王の元で成長を遂げる…








 この兄弟、兄は三郎弟は九郎とという。
 後世武家の世を切り開いてすべての侍から神の如く崇められた源頼朝と、その手でもって仇の平家を滅ぼし数多の伝説となった源義経その人である。
今敗軍の汚名を着せられて陰ひなたに隠れているこの兄弟が、後に天地をひっくり返し日本史上元も名高い兄弟と謳われることになろうとはこの時誰も思ってはいない。
 なお兄弟はそれぞれ母親の異なる腹違いの兄弟であり、今のところ兄弟の面識は一切ない…




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書き直しです。実名表記に切り替えて次回以降スムーズにストーリーを書き上げて簡潔に持っていくつもりです





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