Nicotto Town


盗月Blog——島村抱月TextData——


■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の…(11)

■近代文藝之研究|研究|藝術と實生活の界に横たはる一線|三 (4)

言はゞ更に深い生活に這入つたからである。手足を動かしてゐる間は、其の動いてゐる部面だけは眞實だが、覺醒、自照、自鑑、要するに意識といふ貴い部面に於いてまだ眞實の度に至つてゐないのである。眞實が此の部面に達した時手や足の活動は休むかも知れない。けれども同時に我が心には今迄無かつた別の意識が眼をあいて來る。一種の嬉しさを感ずる、急に自分が廣がるやうに感ずる。是れが言ふ所の味といふやつであらう。人生の味が始めて滲んで來る。此の時の気持ちは正しく禪家のいはゆる湛然の水に眞如の月が澄んだとか、花は紅く柳は緑に雨は濕つぽく風は寒く現じて來るとかいふ境である。此に於いてかたゞの浮世とは違ふ、一種超越的の感を伴うことになる、手や足の實行の世界から見ればたしかに閑事業とも言へる。



--------------------
*註1:言はゞ更に
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

*註2:這入つたから
「這」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註3:要するに
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
原本では「に」がなかったが、脱字と思われるので改めた。

*註4:意識といふ・別の意識が
「識」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shiki.jpg

*註5:部面に達した時
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:今迄無かつた
「迄」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註7:急に自分が
「急」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyuu_isogu.jpg
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg

*註8:是れが言ふ所の
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
原本では「是れか」となっていたが「是れが」の誤植と思われるので改めた。

*註9:柳は緑に
「緑」の旧字体。旁が「碌」の旁と同じ。

*註10:風は寒く
「寒」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kan_samui.jpg

*註11:境である
「境」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyou_sakai.jpg

*註12:浮世とは違ふ
「浮」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hu_uku.jpg
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註13:感を伴うこと
「伴」の旧字体。旁の「半」が「拌」と同じ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ban.jpg

--------------------
■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.