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■近代文藝之研究|講話|舞踏とオペラ(4)

■近代文藝之研究|講話|舞踏とオペラ (4)

尚ほ踊りに就いてモー一言を加へて見ると、西洋の寄席亦はお伽芝居、滑稽オペラの類に出て來る舞踏は、いふまでもなく、多くは形式美的な程度なもので、抒情的なものは割合に尠い、またあつても其現す所の情たるや極めて快活な、賑やかな、調子の急なものであるが、それでも近頃優美な、緩やかな情調を現はすもの、即ちより多くシンミリ[#「シンミリ」に傍点]として日本の踊りに近づいて來るものが、漸次多くなつて來たやうに思はれる、而し一方には亦た亞米利加から這入つて來るデモクラチック(衆俗的)の盛んな勢力に壓倒せられるのは、あらゆる方面皆同じことで、舞踏の上に於ても寧ろ俗なものが却て行はれて居る、其最好例はニ三年來歐羅巴の寄席社會を風靡して、一層眞面目な藝に迄多少の感化を及ぼして居る所のケーク、ウォーク(菓子踊)といふ踊りである、先達て川上君が黒人踊りといふものを演じたといふ話を聞いたが、それがケーク、ウォークであるかどうかは私は見ません事故知らぬが、兎に角此勢力は大したもので、亞米利加から英吉利、英吉利から佛蘭西及び獨乙へと渡つて行つて、現に一ニ年前の新聞などを見ると、佛蘭西では此の踊りの侵害を防ぐため是れが撲滅案を一部の藝術家が唱へて居た位のものである。此踊りは確か亞米利加の印度人から出たもので、菓子を前に据えて置て、其前で數人の男女(大抵は男と女と二人)が、男は杖、女は蝙蝠傘を持つて、男はシルクハットを目の上にまで落して冠つて、相共に或は後に反り、或は前に反つて、醜い腰付きをして踊るものであつて、まづ言つたら日本のステゝコなどいふ部類に屬するもので、即ち普通ならば醜い輕蔑の情を催すやうな手振り、體付きなどで、却つて人の注意力を刺戟して、其所に興味を覺えさせるやうなものである。

近代文藝之研究終



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*註1:尚ほ
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。

*註2:程度
「程」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hodo_tei.jpg

*註3:抒情・情たるや・情調・輕蔑の情
「情」の正字体。「月」は「円」。
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg

*註4:現す所・居る所・其所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註5:調子
「調」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/cyou_shiraberu.jpg

*註6:急な
「急」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kyuu_isogu.jpg

*註7:近頃・近づいて・近代
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註8:緩やかな
「緩」の旧字体。「糸」+「爰」。

*註9:漸次
「次」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ji_tsugi.jpg

*註10:這入つて
「這」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註11:社會
「社」の旧字体。扁の「ネ」は「示」。

*註12:一層
「層」の旧字体。「曽」が「曾」。

*註13:先達て
「達」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註14:一ニ年前・前に・其前
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註15:侵害
「侵」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shin_okasu.jpg
「害」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/gai_sokonau.jpg

*註16:杖
「杖」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/jyou_tsue.jpg

*註17:普通
「通」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註18:文藝
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註19:研究
「研」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ken_togu.jpg

*註20:終
「終」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/owaru.jpg

*補註:この談話筆記の発表年は記されていないが『歌舞伎』明治39年(1906年)4月号が初出のようである。



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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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