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■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義(22)

■近代文藝之研究|研究|近代批評の意義 (22)

而して佳し惡しの判断は一種の評價である。縱ひ其の標準は明に客觀には掲げられずとするも、主觀の心の底に埋まつて存してゐることは疑ふべくもあらぬ。意識の閾の外で之れに照準したに過ぎない。從つて之れを我等が知識作用の自然に任すれば、主觀の底に埋沒してゐる標準を其のまゝに埋沒せしめ置くことは不滿足である。之れを發掘して明に客觀に掲出せんとするのが、おのづからの傾向である。此の傾向の好實例は、前に點出した佛の批評家サント、ブーヴの上にも見られる。佛文學史に於いて近代の典據たり、且つ彼の國第一の評論雜誌レヴユーデ、ダー、モントの主宰者たるブリュンチエール氏は、彼れの批評を目して單に自家印象の日記たるが如き主觀批評から、漸次に方面を轉じて其の作者の上に考量を及ぼし、作者の性風感想を研究する心理的批評に移つたものとしてゐる。即ち自家の主觀のみに依頼せんとしてゐたものが、それに不滿足を感じて作者の性風といふが如き客觀的のものに根據を托せんとするに至つたのではないか。



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*註1:而して佳し
原本ではこの文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:惡しの判断
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg

*註3:一種の評價・批評家・評論雜誌・主觀批評・心理的批評
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg

*註4:掲げられず・掲出せんとする
「掲」の旧字体。旁が「曷」。

*註5:過ぎない
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註6:前に點出した
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註7:佛文學史
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg
「史」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_humi.jpg

*註8:近代の典據
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註9:主宰者・作者
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg

*註10:ブリュンチエール
フェルディナン・ブリュンティエール(Ferdinand Brunetière/1849年〜1906年)のこと。原本では前出時は「ブリュンチェール」表記だったが、ここでは「ブリュンチエール」となっている。どちらが誤植とも判断しかねるので原本のままとした。[参照]⇒《文藝上の自然主義(24)、(62)》

*註11:漸次に
「次」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ji_tsugi.jpg

*註12:研究する
「研」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ken_togu.jpg

*註13:依頼せんと
「頼」の旧字体。旁の「頁」が「刀」+「貝」

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