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■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(5)

■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第一(5)

されば、我がオクスフオドのキープルカレッヂに此の繪を見し夜は、我はまた眞理の明燭を片手に掲げ、紫微の御門の扉を敲いて「あはれ万能造物の御神、世は待對矛盾の塊にして、其所やがて調和を要し、節制を要し、努力を要し、道徳を要し、苦痛を要するの根原たり、そも/\待對矛盾として此の世を表白し給ひし理趣如何」と詰らまほしの情に禁えざりしが。
我が瞑想のやうやく理に入らんとする時、ヴェシゥヰ゛アス山は、再び其の面目を展開したり。今まで黒き衣に覆ひかくせし胸を披くと見れば、慘ましくも一痕の生ま傷、たとへば、みづから衷心の苦悶に堪えずして、爬き〓(「宛」+「リットウ」)りたる深手《ふかで》とも見えて、山腹の谷間《たにあひ》にラワ゛の流れ尚ほ燃え殘れり、晝は心づく人もなし、夜に入れば其の色血よりも赤く、おのづから人の膓にこたえて物々し。



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*註1:されば、我がオクスフオドの
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。

*註2:掲げ
「掲」の旧字体。旁が「曷」。

*註3:扉
「扉」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hi_tobira.jpg

*註4:造物
「造」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註5:御神
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。

*註6:其所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註7:要し・要する
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg

*註8:節制
「節」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/setsu_hushi.jpg

*註9:道徳
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
「徳」の旧字体。「心」の上に「一」が入る。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/toku.jpg

*註10:そも/\
「/\」は踊り字・くの字点。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/odoriji.jpg

*註11:情
「情」の正字体。「月」は「円」。

*註12:ヴェシゥヰ゛アス山
「ヰ゛」は濁点と合わせて一文字。
現代では「ベスビオ(火)山」と表記されるが、原語ではVesuvio(ヴェズーヴィオ)。イタリア・カンパニア州にある標高1,281mの火山。ナポリから東へ約9kmのナポリ湾岸にある。現在は噴火していない。英語読みから「ヴェスヴィアス」、ラテン語読みから「ウェスウィウス」「ヴェスヴィオス」とも呼ばれるようだ。西暦79年の大噴火で火砕流がポンペイを埋没させた。

*註13:黒き衣
「黒」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kuro.jpg

*註14:覆ひかくせし
「覆」の正字体。「襾」+「復」。

*註15:爬き〓りたる
「〓」は「宛」+「リットウ」。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/wan_mushiru.jpg
読みは、「爬き」は「かき」、「〓りたる」は「けずりたる」「えぐりたる」「むしりたる」のどちらなのかは不明。

*註16:ラワ゛の流れ
「ラワ゛」は「lava」で「流れ」「溶岩流」の意。

*註17:尚ほ
「尚」の旧字体。「ナオガシラ」は「小」。


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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1




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