■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(7)
- カテゴリ:その他
- 2010/04/30 16:57:31
■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第二(1)
第二
彼れは徐に手を擧げ遙かに白む地平線のあたりを指しながら、
「見られよ、東海の客。我れ足下のために古今を示すべし。かしこ天と水と相迫るところに、かすかに髪の如き一道の明るみあるを見たまはずや。天地いかに晦朦の夜なりとも、此の一線の明白は、曾て消ゆることなし。
闇より滑り出でてまた闇に入るべき一葉舟の微といへども、一たびこの白光域に來たるときは、詳細に其の本體を露呈する。彼の岸と此の岸と始終と周圍とは、凡て黒漫々として知るべからざれども、ひとり中間の一線のみは極めて明徹、極めて白精、來るものを照破せずといふことなし。我れ今此の白光の中に古今を觀せまくす。
しばし待ち給へ。東海の客。唇を動かし給ふは、白光とは何ぞと問はん心なるべし。其の答へはかしこにこそ。」
指さす方を望めば、光道おのづから二列に分かれて、一は物みな青く、一は物みな赤く映ずと見えたり。たとへば、一は赤き雲、一は青き雲なんどにて敷き詰めたる道ともいふべし。其の折忽ち一群の人數、彼方の闇より我等が視界の地平線に過り入つたり。
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*註1:地平線
「平」の旧字体。
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*註2:東海
「海」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kai_umi.jpg
*註3:迫る
「迫」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註4:一道・光道・敷き詰めたる道
「道」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註5:晦朦
「晦」の旧字体。
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*註6:消ゆる
「消」の旧字体。旁の「ナオガシラ」は「小」。
*註7:露呈
「呈」の旧字体。「口」+「壬」。
*註8:始終
「終」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/owaru.jpg
*註9:周圍
「周」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/syuu_mawari.jpg
*註10:黒漫々
「黒」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/koku_kuro.jpg
*註11:白精
「精」の正字体。旁の「青」の「月」は「円」。
*註12:望めば
「望」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bou.jpg
*註13:分かれて
「分」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hun_wakeru.jpg
*註14:青く・青き雲
「青」の正字体。「月」は「円」。
*註15:視界
「視」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/shi_miru.jpg
*註16:過り
「過」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1