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■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝(61)

■近代文藝之研究|研究|囚はれたる文藝 第十三(4)

斯くの如き畫に就いて見るも、神秘的文藝は理知を要せず、また之れを有せず。尋常の事象よりして、直ちに或る深奧不可思議なる感情に闖入す。中間に理知の容啄を許さず、是れ其の知識的文藝に反して起るべき資を有する所以なり。
更にまた神秘的と連續して見らるゝは、超自然的といふことなれども、茲には之れを神秘的といふ項下に合せんとす。蓋し超自然に材を取るの發意は、是れによりて知識の干渉を一排し、以て自由廣濶なる感情の天地に羽うたんとするにあればなり。超自然的、超人間的なるが故に、ここに驚異來たり、不可思議來たり、神秘來たるは當然の數なるべし。
超自然的文藝の好例はオペラに多し。音樂界にありてローマンチシズムの近祖と稱せらるゝ獨のヴェーバーが『フライシユッツ』中、主人公が惡魔に教えられて魔術の彈丸を鋳る一場は、下には巖穴の間に髑髏の影亂離として、上には妖雲起つて頻りに東西し、全面の光景おのづから遠く人間界を出て、鬼氣人を襲ふと共に、沈痛、雄大、神秘なる音樂は、我れを導いて、廓落涯りなき世界に入らしむ。



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