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■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に…(20)

■近代文藝之研究|研究|沙翁の墓に詣づるの記 六(3)

「いや私《わたし》の考は少し違ふ。あれはアブスツラクト、アイといつて、深く思想を一事に集中してゐる時の状態ぢや。眼《め》は明いて居ても何も見當《けんたう》をつけて見てはゐない表情ぢやと思ふ。私《わたし》には寧ろ何か我々には聞こえぬ靈妙の音樂どもを、耳で一心に聞いてゐる時の眼と見えますな。」
「それはお父つさま、考へやうですけれども、若しあれが耳の方に氣を取られてゐる眼《め》なら、今少し上を向くか下を向くかして欲しいと思ひますわ。」
「私《わたし》もどうも其の方の説に賛成したいですね。あれをアブスツラクトの眼《め》としては、ちと意味があり過ぎるやうに思ひます。」
「さうかな。私にはどうもさうは思はれんが、併しこんなことは主觀的な所の多いものぢやから何とも言へん。」
と和して同ぜざる英國紳士のゆかしい氣質を見せた老人は、更に言葉をついで、
「それであなたは此の像に對して全體に何《ど》ういふイムプレッションを得ましたか。」



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*註1:違ふ
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註2:アブスツラクト、アイ
原本では「アブスツラク、アイ」とあるが脱字と思われるので改めた。(原本の数行後には「アブスツラクトの眼」の表記もあり)

*註3:音樂
「音」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/ne_oto.jpg

*註4:意味があり過ぎるやうに思ひます。」
原本ではカギ括弧の閉じ“」”が脱字しているので改めた。

*註5:主觀的な所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註6:更に
「更」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sara.jpg

*註7:全體
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg

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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

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2011/08/30 23:07
うんうん・よくわからん



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