■近代文藝之研究|時評|動的美學(4)
- カテゴリ:その他
- 2011/11/27 22:29:06
■近代文藝之研究|時評|動的美學 (4)
而して斯かる種類の興奮を起こすべき條件を、明かに研究せんとすれば、之れを其の客體に求むるに如くは無い。然るに之れを客體に求め得た結果は、矢張り動といふことである。客體の上に動あるときは、之れが中樞機官に起こす興奮は、官能組織に動を生ずる。但し實際客體の上に動は無くとも、我れの中樞機官で之れを補足し展開して、動的客體とするを得る場合もある。兎に角如何なる順序に於いてか、動によツて刺戟せられた興奮でなければ、美快感の理由とはならぬ。
例へば山を見るとしても、其の山を單に居据ツた、靜止し定着したものとして見てゐる限りは、美快感は起こらぬ。若し之れに動の意義を着けて、或は其の山の原始を想ひ、現在を想ひ而して未來を想ふとか、或は其の山に雲の行藏を結び附け鳥の往還を連ね合はすとか、或は其の山に花葉の盛衰を配し淵瀬の變化を點ずるとかするに及んで、始めて美快感を喚び起こす。山水自然の景色を打ち眺むるに於いても、若し其の景色が凡て靜止したものゝみである場合に、中に一點、何か動くものを見出だすときは、其の點が新鮮なる活氣の中心となつて、全幅が振ひ立つて來る。
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*註1:起こす・起こらぬ
「起」の正字体。旁の「己」が「巳」。
*註2:未來
原本には「末來」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註3:往還
「還」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註4:連ね
「連」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註5:淵瀬
「瀬」の旧字体。旁の「頁」部分が「刀」+「貝」。
*註6:全幅
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
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■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
うしっし