■近代文藝之研究|時評|文學入門者に(11)
- カテゴリ:その他
- 2012/05/04 17:33:34
■近代文藝之研究|時評|文學入門者に (二)(7)
圓滿性とはいへ、批評家たるべき人の要する圓滿性は、作家たるべき人の要する特性と同意味に於て所謂聖人君子が有する圓滿性とは一寸違つた所がある。その點でいふと批評家もやはり作家と同じく、物の根本を直觀する力があり、情を以つて物を温めるといふ如き力を有することを必要とする。けれども作家と異るところはその上に理解性が加はらねばならぬといふ點である。理解性の加はらざる批評は面白いことがないでもなけれど、時としては全く批評を成さゞる場合がある。批評と云へば必ず我々が作品の價値《ねうち》について疑を抱いた場合にその疑を解くだけの説明力を持つて呉れなくてはならぬ。その最後の判斷力のない批評は只の印象記にはなるが批評には物足らぬ。かゝる最後の判斷力即ち人をして理解せしむる力は、その批評家の説明力、理解力に待つ外はない。感じて而して説明するといふ二性が備はならねばならぬ。これやがて二者の異る所以、批評家は作家に比して兩面を具備すべきこと、即ち圓滿性に近かるべしといふことである。
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*註1:圓滿性とはいへ
原本では文頭は前ページの文末より改行なしでつづいている。
*註2:批評家・批評
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg
*註3:要する・必要
「要」の俗字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/you.jpg
*註4:所謂・所がある・所以
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg
*註5:聖人
「聖」の旧字体。「王」が「壬」。
*註6:違つた
「違」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
*註7:その點でいふと
原本には「その點ていふと」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註8:情を以つて
「情」の正字体。「月」は「円」。
*註9:温める
「温」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/on_atataka.jpg
*註10:理解性が加はらねば
原本には「理解性か加はらねば」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註11:全く
「全」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen.jpg
*註12:抱いた
「抱」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hou_daku.jpg
*註13:説明力・説明する
「説」の旧字体。旁は「兌」。
*註14:呉れなくてはならぬ
「呉」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/kure.jpg
原本には「呉れなくではならぬ」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註15:判斷力
「判」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/han_wakaru.jpg
*註16:二者の異る所以
「者」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mono.jpg
原本には「二者の異る以所」とあるが誤植と思われるので改めた。
*註17:近かる
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。
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■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1
今晩の月はいつもより明るくて大きい月みたいです。
飴玉みたいで美味しそうw