Nicotto Town


盗月Blog——島村抱月TextData——


■近代文藝之研究|時評|思ひより(2)

■近代文藝之研究|時評|思ひより (2)

而して斯くの如き自然派的傾向の傍に相接して存し得べきものは、哲學的乃至神秘的感味といふ意味に於いてのローマンチシズムではないか。我等は素直なる自然派の興隆を喜ぶと共に、之れに右の如きローマンチシズムの配色明かなるものをも認める。ツルケネフたりモーパッサンたると、はたイブセンたりハウプトマンたると我が文壇が眞に之れに感化せられるに於いて些かも上下優劣の差別は無い。
所謂罵評、乃至思つた事は前後左右に關せずして言つて了ふといふ直言評は、すつきりとして善い氣持に讀まれるものだ。併し若し之れに個人的の愛憎取捨が這入つて來ると、直反對に醜惡なるものとなる。あらゆる方面に無頓着である所が此の種の批評の生命でなくてはならぬ。
二月の雜誌類に出た小説中では、『趣味』にある正宗白鳥氏のものが最もすぐれてゐたやうに思ふ。『塵埃』は如何にも落ちついて重みのある短篇である。落想は西洋の近世ものに比べて左して珍とするにも當たるまいが、我が作界にあつては、蓋し此の一二月にわたつての佳品である。續いては本誌に出た水野葉舟氏の作などが二月作界の傑出であらう。



--------------------
*註1:神秘的
「神」の旧字体。扁の「ネ」が「示」。

*註2:認める
「認」の正字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/mitomeru.jpg

*註3:文壇
「文」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/bun_aya.jpg

*註4:所謂・無頓着である所
「所」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/tokoro.jpg

*註5:罵評・直言評・批評
「評」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/hyou.jpg

*註6:前後
「前」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/zen_mae.jpg

*註7:愛憎
「憎」の旧字体。「リッシンベン」+「曾」。

*註8:取捨
「捨」の旧字体。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/moji/sya_suteru.jpg

*註9:這入つて
「這」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

*註10:小説
「説」の旧字体。旁は「兌」。

*註11:近世
「近」の旧字体。「シンニョウ」は「二点シンニョウ」。

--------------------
■抱月『近代文藝之研究』を註記なしに通しで読みたいかたは、こちらをどうぞ。
http://www5e.biglobe.ne.jp/%7Ehanadada/tougetsu/kbk_tobira.html
■このテキストの原本は国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」収録の「近代文芸之研究 / 島村抱月(滝太郎)著 早稲田大学出版部, 明42.6」の画像データに依っています。
http://kindai.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/871630/1

アバター
2012/06/26 09:02
趣味が大切ですね これだと。



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.